サルビアの育てかた
──月日はあっという間に流れ、私が十九歳になったある日のこと。
モラレスさんのライブツアーで仕事が遅くなった日、私は家に帰らずに会場近くのホテルに泊まるスケジュールになっていた。
一人で外を歩いていて、たしか夜の十時を過ぎていたと思う。早くホテルに戻ってシャワーを浴びたいなんて考えていた、矢先だった。
ひとけのない薄暗い道端で、突然背後から私に声を掛けてくる女の人が現れたの。
「ねえ、あなた。レイ? レイ・グリマルディ?」
「……はい?」
振り返るとそこには、見覚えのない女の人が立っていた。ファンの人かな、なんて暢気に思っていたんだけど。
その人の目は、なぜか焦点が合っていなかった。黒い長髪は手入れが全くされていないように乱れていて、顔立ちが東洋系に見える。それに、腕も足も棒のように細い。着ている服なんかボロボロで、変な匂いがするの。
見るからに、おかしい人。私はその時点で足がすくんでしまう。
「ワタシのこと知ってる? 覚えてる? あなた、ワタシのこと……」
何だろう? 話しかたがおかしい。ボソボソと喋っていて、聞き取りづらいの。
女は一歩二歩千鳥足でこちらに近づいてくる。
逃げなきゃ。
咄嗟にそう判断した。それなのに、足が、身体が強張って動いてくれない。
女からは、とてつもないキツい匂いがした。
(煙草の匂い……?)
吐きたくなるほど嫌になる、この感覚。私、どうしちゃったの。
モラレスさんのライブツアーで仕事が遅くなった日、私は家に帰らずに会場近くのホテルに泊まるスケジュールになっていた。
一人で外を歩いていて、たしか夜の十時を過ぎていたと思う。早くホテルに戻ってシャワーを浴びたいなんて考えていた、矢先だった。
ひとけのない薄暗い道端で、突然背後から私に声を掛けてくる女の人が現れたの。
「ねえ、あなた。レイ? レイ・グリマルディ?」
「……はい?」
振り返るとそこには、見覚えのない女の人が立っていた。ファンの人かな、なんて暢気に思っていたんだけど。
その人の目は、なぜか焦点が合っていなかった。黒い長髪は手入れが全くされていないように乱れていて、顔立ちが東洋系に見える。それに、腕も足も棒のように細い。着ている服なんかボロボロで、変な匂いがするの。
見るからに、おかしい人。私はその時点で足がすくんでしまう。
「ワタシのこと知ってる? 覚えてる? あなた、ワタシのこと……」
何だろう? 話しかたがおかしい。ボソボソと喋っていて、聞き取りづらいの。
女は一歩二歩千鳥足でこちらに近づいてくる。
逃げなきゃ。
咄嗟にそう判断した。それなのに、足が、身体が強張って動いてくれない。
女からは、とてつもないキツい匂いがした。
(煙草の匂い……?)
吐きたくなるほど嫌になる、この感覚。私、どうしちゃったの。