サルビアの育てかた
 悪魔の表情は、急に柔らかくなる。だけど瞳の奥底だけは狂気に満ち溢れていた。

「ねぇ、レイ。ワタシはあなたの母親(・・)なのよ。ワタシを、助けて」
「何、言ってるの?」
「モラレスのバッグダンサーならすごい稼いでるんでしょう」
「……え」
「ワタシ、お金がないの。ねぇ。お願い。お金を分けてよ。【娘】でしょう?」

 そう言いながら、悪魔は私に抱きついてきた。

 悪魔の女の服から、煙草と酒の匂いが漂ってくる。気持ち悪いぬくもりに、吐き気がした。

(誰が、母親ですって? 誰が、あなたの娘なのよ。ふざけるな……ふざけるな。この悪魔……!)

 恐怖と、悔しさと、憎しみと、嫌悪感が私の中で爆発してしまい、両目から大量の涙が溢れてきた。


 ──しばらくの間、道端で独り呆然としゃがみ込む。私の鼻の奥には、あの悪魔の匂いがしつこく残り続けていた。
 目の前には、私の財布が空っぽの状態で地面に投げ棄てられている。
 全身が震えているが、寒さのせいじゃない。

 私はその日から、再び悪夢に魘されるようになってしまった。
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