サルビアの育てかた
 震える足で、俺は急いで部屋まで駆けていく。
 ドアを開けて部屋へ戻ると、ちょうどレイが脱衣場で二人分の寝間着を用意しているところだった。

 彼女の姿を見た瞬間、たった今起きた事態から逃れたい気持ちが溢れる。素早くレイの所へ駆け寄った。

「ヒルス、スマホは……」

 レイが最後まで言う前に、俺は勢いよく彼女に抱きついた。冷たくなった俺の身体をあたためてくれるのは、彼女のぬくもりだけだ。

 ガクガクと恐怖に支配される俺のことを、レイはそっと抱き寄せてくれる。

「どうしたの、ヒルス。そんなに外寒かった……?」

 戸惑っているような声色。
 とんでもないほど、俺の全身が震えてしまっているのだから。
 だけど、フラットの前で悪魔が彷徨いていたなんて。絶対にレイには言えない。
 俺は無理に作り笑いを浮かべてみせる。

「……寒かったよ。凄く寒かったから、レイが俺をあたためてよ。服、脱いで」
「ヒルス」
「ん?」
「言ってること、ちょっと矛盾してるね」

 クスッと笑うレイの顔は相変わらず眩しい。俺がどんな心情でいても、彼女は癒やしをくれる。

「いいよ。あたためてあげるね」

 そう言いながらレイは、優しく俺の服に手を伸ばした──
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