サルビアの育てかた
 俺は上体を起こし、真顔で彼女に話を続ける。

「ごめん。本当は、もっとセキュリティがちゃんとしている家に住みたいんだ」
「……えっ?」
「レイを想ってのことだよ。忙しくなる前に、家を決めないと次にいつ引っ越せるか分からなくなる。セキュリティがしっかりしたフラットを探そう」
「……ヒルス」

 彼女のトラウマの痕に優しく右手を添えて、俺は一度呼吸を整えた。

「ありがとうヒルス。私の為に、考えてくれていたんだね」
「俺はいつだってレイのことしか考えてない」

 目を細める彼女の額にそっと唇を重ねる。するとレイは、俺の胸の中に顔を埋めて抱きついてきた。

 レイが甘えてくる時の、この行動が愛おしすぎてたまらない。

 そんな彼女を抱き寄せ、俺はゆっくりと横たわる。

 幸せなんだ。こういう何気なく流れる夜の時間が。レイのぬくもりは、いつだって安心と癒し与えてくれるから。

 だが、この尊いひとときを過ごすほど俺は彼女との【今】を失うことに恐れも感じていた。

 レイが悪夢に魘されている声を聞いただけで、俺の心もえぐられそうになるほど苦しくなる。見たくない。彼女が辛い想いをしたり、怯えたり、苦しむ姿なんて見たくないんだ。
 だからこそ、彼女を守る為に出来ることは早急にこなしていかなければ。

 決意を胸に、いつの間にか夢の中に意識が落ちていった。
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