サルビアの育てかた
 翌日から、俺は早速新しい物件探しに没頭した。

「珍しいわね、ヒルスがそんなに熱心にスマホを弄ってるなんて」

 スタジオの前で俺がいつものようにレイが着替え終わるのを待っていると、後ろからフレアが声を掛けてきた。

「ああ、ちょっとな。いい物件がないか見ている」
「えっ。なになに。新しい愛の巣(・・・)を探してるの?」
「いや、言いかた……」

 なぜか目をキラキラ輝かせるフレアの反応に、俺は小さいながらもツッコミを入れる。それでも気にする様子もなく、フレアは満面の笑みを浮かべた。

「そっかぁ。ついにあなたたちも。よかったわね」
「よかったって、何が?」
「白々しいわねぇ。結婚するから(・・・・・・)引っ越すんでしょう?」
「け、結婚……?」

 思いがけないフレアの単語に、俺は一瞬息が止まった。
 大袈裟に首を横に振る俺を見て、フレアの顔から笑みが消え去っていく。

「あら、違うの?」
「違うよ」
「残念」
「その時が来たらちゃんと言うから」
「その時っていつ?」
「それはまだ」
「はい出た。ヒルス君のヘタレっぷり! そこは『今でしょ』て答えてくれないと」
「……面白くねぇな」

 冗談を言うフレアに、俺は一切笑うことが出来ない。ありえないほど顔が熱くなっている。

 フレアはクスクスと笑いながら左手で髪をかきあげた。この時――フレアの薬指が綺麗に光り輝いた。
< 671 / 847 >

この作品をシェア

pagetop