サルビアの育てかた
「レイちゃん、来月で二十歳になるでしょう。問題なく結婚出来る年齢よ? まぁ、お二人の問題ですからわたしはこれ以上口出ししませんけど」
「あ、ああ。本当に勘弁してくれ」
「はいはい。すみませんねぇ」と言いながら、フレアは俺に背を向けた。顔だけこちらに向けて手を振るんだ。
「それじゃあ今日もお疲れ様。先に帰るわ」
「ああ、気をつけてな」
「また明日ね」
傾きかけた夕陽に向かって歩いていくフレアの後ろ姿に、俺は目が離せなくなった。碧色の綺麗なロングヘアが風に揺らされ、葉のない木々たちの間で輝きを反射させている。
藍色が混ざったあの夕空よりも美しい眺めだった。
「フレア」
「何?」
歩みを止め、フレアはもう一度俺の方を振り返る。
「フレアは今、幸せか」
「えっ」
はにかみながら、彼女はゆっくりと頷いた。
「当たり前よ。毎日、超幸せ!」
顔が赤くなっていた。フレアはそのままの表情で、帰路に足を向ける。
「じゃあね!」と夕陽に向かって言葉を残し、駆け足で去っていった。
フレアが見えなくなるまで俺はその後ろ姿を見届けた。
オレンジの光がみるみる姿を隠していく。この景色に心が奪われそうになる。
俺はポケットにそっと両手を仕舞った。風が少しでも吹くと、身震いがする。