サルビアの育てかた


「──なぁ、ヒルス。リミィって可愛いよな」

 ランチタイム。ダンススクールの休憩所で、俺の苦手な奴──ライクがいきなりそんなことを言ってくる。
 よりによってどうしてこいつが夢の中に出てくるのか。本当に最悪だ。

「何だよお前。キモいな」

 俺の本心をライクにぶつけてやった。たとえ夢の中だとしても、二度と会いたくない相手だった。
 眉間に皺を寄せる俺に対して、両腕を組んでライクは大声で笑う。

「そう言うなよ、ヒルス! 結構本気なんだぜ」
「はぁ? あんなガキに惚れてんのか」

 呆れながら俺がそう言うと、ライクは首を傾げる。

「リミィのどこがガキなんだ?」
「……えっ」

 一瞬、その場には変な空気が流れる。

 ああ、そうだ。もしリミィが生きていたら俺たちと歳が近かったのか。なぜだかこの時、レイのことだと勘違いしてしまった。

 サングラスをかけるライクの表情はいつも分からない。だが、鼻歌を口ずさんでいて、上機嫌なのが伝わってくる。
 俺はそんなライクを横目に、ふと過去を思い出してしまう。

 もしもリミィが生きていたらノース・ヒルでの事件(あんなこと)は起こっていなかっただろう。誰も傷つかずに、済んだのかもしれない。ライク(こいつ)も馬鹿な真似をせず、ずっとインストラクターとしてダンススクールに勤め続けていたのだろうか。
 そう考えたって現実は変えられない。夢の中の俺はどうかしてる。
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