サルビアの育てかた
 俺とレイは自宅へ帰る前にタクシーを拾い、ダンススタジオに向かった。
 長い距離の間俺もレイも口を閉ざしたまま。せっかく退院したのに、心がどんよりとしている。

 タクシーに揺られながら外の景色を見てみると、太陽の光が俺の目に飛び込んできた。心情とそぐわない明るさが、心の奥まで刺激してくる。
 眩しさから逃れようと顔を背けると、彼女の指先が視界に入った。

(レイの指って綺麗なんだよな……)

 心の中でぽつりとそう呟き、レイの手をギュッと握った。
 彼女への贈りものは、淡くキラキラと光を反射させる。大切な約束を交わしたピンク色の灯りだけは、俺の胸にあたたかみを与えてくれた。
 レイは何か言うわけでもなく、だけど表情だけは切なさでいっぱいなんだ。

 ──そんな顔するな。俺まで悲しくなるだろ?

 立ち直ったつもりだった。どんな未来が待っていようとも、俺は壁を乗り越えようと思っていたから。
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