暇な治療院
 今や高校野球でもホッとゾーンは試合を避けるようになったんだね。
それが正しい判断だと思う。
まあ、それでナイターが遅くなるのはどうかと思うけどさあ。
 4時から開会式をやったわけでしょう? 以前は9時からやって試合を入れてたもんねえ。
 ところがさあ、マッサージ業界はホッとゾーンを外すと仕事にならないって思ってるんだよね。
特にグループホームなんかに入ってるとその傾向が強くなる。
だから糞暑い真昼間に汗だくになって仕事をする羽目になるんだ。
 直接関わらない社長さん方は現場を知らないから何とも思ってない。 憐れなもんだ。
 マッサージ師が倒れても「意気地なし。」とか「お前が何もしないから悪いんだ。」とか言われて終わり。
自分でやってみろや。
 そんなこんなで不条理はまだまだ根絶できないなあ。 人間が変わらないと無理だよ。
でもさあ、その頼みの人間が江戸時代よりも退化してるんじゃ話にならない。
 ポンコツと話すくらいなら遊んでたほうがまだまし。
気を病むことも無いしね。 ねえ社長さん?
 なんかさあ、ぼくっていつも文句ばかり言ってるよねえ。 言わせるやつが多過ぎるんだ。
って周りに点火してみる。 燃えないわ。

 一口に30年って言うけれど振り返ってみれば凸凹だらけだった。
自分で道を切り開いていかないと誰も開いてはくれないから。
 治療院に就職したんなら師匠が手取り足取り指導してくださるさ。 それも無い。
経験が無い中で目の前の患者さんを捌いていかないといけないんだ。
泣きたかったね。 周りに理解してくれる人は居なかった。
 その中で一人ずつ信頼を勝ち取っていくんだ。 厳しかったよ。
きちんとやってても評価されないことだってたーーーーーーーっくさん有ったんだ。
 今になってやっと自分のやりたい仕事を出来るようになった。 そんな気がする。
そう思えたのは邪気抜きの治療を始めた時かな。
 その辺の先生たちなら「痛い所をやればいい。」とばかりにそこに鍼を刺したり揉んだりする。 それで良くなればいいさ。
でも半分は治らない。 そこには邪気が取られずに残っているから。
 その邪気を根こそぎ取ってしまえば症状は簡単に消える。 それが邪気抜きだ。
 もちろん、邪気はぼくの体に染みついている。 時々悪さをしてくる。
でもそれはさ、施術者だから感じられることで他の人たちには分からない。
ある意味でぼくが大事にしている秘密の奥儀だね。 そう思う。
後継に伝えたいって思うことも有るよ。 でもね、邪気を指先で感じ取れなかったら話にならないんだ。
 邪気を感じ取ることが全ての始まりだからね。 だからぼくは次の世まで持って行くことにしている。
誰にも真似は出来ないから。
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