For Myself
彼女とその母親が会話をして部屋から出ていくのを見て入れ違いになるように静かに診察室に入った。彼女の目から涙が流れている。



「病棟に上がるが…大丈夫か?ほら。」



ぶっきらぼうになってしまうが、彼女の体を支えベッドに座らせて、さティッシュを差し出した。止めようと思ってしたのにさらに泣き始めて止まるまでの少しの間付き合う。



途中で息が苦しくなり咳き込んでしまう様子が見られた。聴診器を使わなくても聞こえるほど徐々に大きくなる喘鳴。



いつポケットに入っている吸入をさせようかと思っていたら、咳に所々窓の隙間風のような音が聞こえ始めた。本格的な喘息発作である。



やはり初めてではないのか必死に呼吸をしようとしている姿を見て今聞くしかないと思った。



「これは喘息の発作だ。今までもこういうことがあったか?」



彼女は声に出さずに何度も頷いた。それをもっと早くに知りたかった。今の体の状態はわかってもいつからとかは医師には分からない。でも、その前に薬だ。



「これは喘息に効く薬、ここを押したら薬剤が出てくる。ここを咥えて、俺が押すのと同時に息を吸って欲しい。その後3~5秒ほど息を止めてね。



123で押すから。行くよ、1.2.3」



カシュッっと薬が入るのと同時に吸い込むことが出来たようで、しっかり息を止める所まで頑張ってくれた。



「よく出来たな。もう少しで楽になるからな。」



まるで幼い子供に言うように頭をポンポンとしながらやってしまった。これもしかしてセクハラか?なんて思いながら、頭に置いた手を背中をさする方向に下ろした。



「吸入という方法の薬だ。普段から発作を起こさないために使うものと、発作が起きてから使うものの2種類を渡す。どちらも、吸入をしたら必ずうがいをすること。」



どうせ、看護師や薬剤師がもう一度教育をするとは思うが、今のうちに吸入の説明をしておいた。そうしているうちに、吸入をしたことで、咳がある程度止まってきている。落ち着いたことを確認し、洗面台でうがいをしてから入院病室に向かうことにした。
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