君を大人の果実とよぶ。
移動者が来た翌々日。
京子は偶然、手術室の前で牧に会った。
本当に偶然かどうかは、今回は振り返らないでおく。
『きょ~んちゃんっ』
『あ、お疲れさまです』
京子は片付けの手を止めることなく言った。
『終わったんですか?』
『ううん、これからだよ』
『そうですか』
『あれ、僕のスケジュール、
もしかして把握できてない!?』
『なんで把握しないといけないんですか』
京子は台車を動かすのに、「しっしっ」と
牧を壁際に追いやる。
せっせと物品を返却するところに、
牧はいつも通りついてきた。
『なんで今日の器械出し、
きょんちゃんじゃないの?』
『それは主任が決めてるのでわかりません。
移動者さんがこれからついていくと思いますよ』
『えー、きょんちゃんがいいなぁ』
『誰としても変わらないでしょ』
使わなかった薬を戻し、
籠は籠置き場へ返し…
京子は牧と目線を合わせさえはしなかったが、
てきぱきといつも通り動いていた。
『…どうしたの?』
『なにがですか?』
もじゃもじゃ頭が、一段と近くで視界に入る。
『なんか、元気ないねぇ』
『そんなことないですよ?』
色付き眼鏡越しの視線を、じっと見返すと、
今度はにこっと満面の笑みが返ってきた。
『あはっ!かーわいい』
『意味がわからん』
頭の悪い会話に辟易していると、
『牧せんせ~♡』
という、まあ可愛らしい声が聞こえた。
『みお~!』
途端に自分に尻尾を振る、可愛らしい女子が
やって来たところで、牧の声がワントーン上がった。