君を大人の果実とよぶ。
『えー!じゃあそのお店、
私のこと連れてってくださいよぉ~』
引継ぎが終わった杏夏が、
牧の隣に詰め寄った。
『だめだめ!きょんちゃんと行くところなんだから』
『だから、行くなんて言ってな…』
京子の言葉を遮るように、
杏夏が牧との距離を更に縮めて言った。
『あはは!先生、引かれてるじゃないですか』
『なっ!引かれてないよ!ね?きょんちゃん』
『きょんじゃなくて、京子です!』
初めましての看護師の手前、
京子はいつも通りの訂正を入れた。
それでも虫の居所が悪くなり、
今度は机の隣にあった、
デモンストレーション用の
エコーになんとなく触れた。
すると、杏夏は牧に向き直って言った。
『じゃあじゃあ、私のこと、"きょんちゃん"って
呼んでほしいなぁ』
『…っ!』
京子が驚いて杏夏を見やると、
珍しく牧も同様のリアクションを取っていた。
『だめ?
だって、こちらのきょうこさんは、嫌がってるし。
私、牧先生ともっと仲良くなりたいんですー』
そう言って唇を尖らせて見せる姿に、
京子は何故かカチンときて、
思わずエコーを持っていた手を離してしまった。
麻酔科が購入検討している、
一台2000万円のエコーを。