君を大人の果実とよぶ。
幸いコードが短かったため、
床に直撃することは免れたが、
持ち手がぷらーんと宙に揺れていた。
さすがの牧も、そんな京子に驚いたのか、
色眼鏡の奥で瞳をぱちくりさせていた。
『あの、きょんちゃ…』
言い切る前に、受付の小窓が勢いよく開いた。
『千秋ーっ‼』
スタッフステーションから、鬼の形相の
師長が怒鳴り声をあげた。
『そのエコー壊したらどうすんのよ!
めちゃくちゃ高いんだからね!弁償できるの!?』
『あ、すみませんっ!』
勢い任せに返事をして、
慌ててエコーをもとに戻す。
『壊れたら大変なことだからね!?
危なかったんだから、
インシデントレポート書きなさい!』
『え…』
インシデントレポートとは、
ミスが起きたときの報告書のようなものだ。
壊れてすらないのに…
ここのお局たちは、後輩にインシデントレポートを
書かせるのが大好きなのだ。
何かと理由をつけては「インシデント!」と連呼する。
『はぁ…わかりました。すみません』
『ったくー!』
そう言ってぴしゃりと窓が閉められた。
『クスッ…』
小さな笑いに、京子は反応しなかった。
見たくもなかった。
見なくてもわかる。
どうせ牧と杏夏が、
互いに目を合わせて笑っていたのだろう。