君を大人の果実とよぶ。



京子にとことんあしらわれた牧は、
廊下にある巨大な掲示板を見上げた。

午後からの手術スケジュールで、
自分の執刀する手術を探す。

担当看護師は、京子ではなかった。

がっくし…と心の中で呟いていると、
横から渚の声が聞こえた。


「ま、そう毎度毎度はつきませんわな」

「主任がわざとそうしてる?」

「まさか。寧ろ気を使ってつけてあげてる方ですよ」


手術スケジュールを組むのは、
総合外科部門の主任看護師だ。

渚は手洗いをした清潔な手を、
どこにも触れないように乾かしていた。


「はぁ、今日もきょんちゃんのクールさで
 心が冷たい」

「そんなに毛嫌いされて、
 どうしてそこまで追えるんですか?」

「毛嫌い…?」


心の雨はますます土砂降りだ。


「だってー…好きなんだもん」

「でも一緒にアメリカに行って、ですよ?」


グサッと心臓に何かが刺さる。

渚の言葉は容赦がない。


「2年も過ごして、ですよ?」

「うっ…」

「戻ってきてるのに、
 先輩の態度はなーんにも変わってない」

「うぅ…」

「それでも振り向いてもらえていないって、
 もう先輩にその気はないんじゃないですか?」


言葉一つひとつがグサグサと、
牧の心をえぐってくる。


「そのオーバーリアクションがうざいんだろうなぁ」

「ひ、ひどい…」


情けない涙が零れ落ちる。



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