君を大人の果実とよぶ。



周りからの視線が痛い。

羞恥の視線ではない、完全に同情の目だ。

いつもこうして見守るばかりで、
誰も助けてはくれないのだ。

アメリカから戻ってくる前の2人を知らない、
若い看護師たちは、
さぞ不思議そうにその光景を見ていることだろう。


「あの二人、本当に付き合っていないんですか?」

「あんなに冷たくされて、
 (まき)先生ちょっとかわいそう」

「でも千秋さんもストーカーされてかわいそう」


幾度となくその台詞を聞いてきた、
京子の一つ下の後輩、島袋渚(しまぶくろなぎさ)が冷静に答える。


「あれがあそこの普通だから。
 みんなそのうち慣れていくの」

「そ。寧ろないと違和感よね」

「でも何かのきっかけで、あの関係性が
 変わることを期待している自分もいるのよー」

「わかるぅー!」


まるで韓国ドラマを見た翌日のように、
ベテラン看護師勢が口々に盛り上がる。

そこに、数年前総合外科部門に移動してきた
干場大智(ほしばだいち)が顔を出した。

白い腕を受付のデスクの上で組んで、
渚の横に並ぶ。


「帰国して少しは変わっているかと思ったが、
 相変わらずだったな」

「まぁ、仕事の相性はグンと
 上がってるみたいですけどね」


渚の言葉に、周囲の看護師が揃って頷く。

後輩たちが首を傾げる間も、
天才ドクター牧と、その寵愛を受ける京子の
激しい攻防は続いていた。


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