君を大人の果実とよぶ。
「AEFだけど、穴がかなり大きかったし、
ステント後の感染がかなりひどいんだよねぇ。
もし2、3か月後に再建できたとしても、
予後どれだけもつかわからないのが現実だし、
再出血した場合にまたTEVARできるかも…」
「そっかー、大変なんだね」
「…そうだねぇ」
「AEFってなんだっけ、仁さん」
「大動脈食道瘻だよー」
「へぇー。すごい、大変そう…」
「うーん、そうだねぇ…」
恵の返答はともかく、
京子もこの症例には興味があった。
大動脈食道瘻の手術は、重症度に応じて
手術が段階的に、数回に渡って行われる。
京子が最初についた手術は、
緊急的な止血処置であるステントグラフト内挿術。
その後に穴の開いた食道を切除するのが無難だが、
主科である心臓外科が、その必要性を否定。
自分たちで先に大動脈の人工血管置換術を行い、
その後消化器外科にパスして、食道再建を行うよう
依頼してくる可能性が高いだろう。
この患者の場合、
最初に手術した部位が感染を起こしているため、
今している手術自体かなりリスクを伴うはずだ。
そんな患者の感染が仮に落ち着いたとしても、
「食道再建の侵襲に耐えられるかどうか…」
頭の中で知識を整理しているうちに、
また無意識に声が漏れていたらしいが、
京子は特に気に留めなかった。
それほど自分の思考に集中していた。
そのため、牧が小さく口角を上げていることには、
全く気付かなかった。