君を大人の果実とよぶ。
今日、牧が執刀しているのは、
開腹の膵頭十二指腸切除術。
開腹手術では、難易度は高い方だが、
牧にとってはやり慣れた手術だった。
ただ、看護師にとってはそうではない。
渚や干場をはじめ、看護師の誰もが、
異動してきたばかりの恵が器械出しをするには、
まだ早いと考えるような手術だ。
牧がこの手術を執刀するのは久々だ。
「モスキート」
「はい」
恵が牧の右手に器械を渡す。
「ちょーだーい」
助手の浅野が手を出す。
「え、どれですか?」
恵がそう言うと、
浅野と牧が揃って顔を上げる。
「血管テープね」
「テープ?」
恵が自分の器械台を漁る。
「それ、その黄色いやつだよ」
「あ、これか!ごめんなさ…」
「ケリーで持ってね」
「あ、はい!」
浅野の柔らかくもピシャリとした物言いに、
恵の耳が赤らんでいく。
牧は何も言わずに、受け取ったテープを
血管にかけて、再び右手を出す。
「?」
恵が首を傾げているのは、見なくてもわかった。
「小モスキートくれる?」
「あ、はーい!」
「ありがと」
と言って受け取り、チラッと浅野を見た。
仕方がない、と訴えかけているのが
牧にはわかった。