君を大人の果実とよぶ。



あんな笑顔…ずるい。


そう思っていたのは、京子だけではなかった。


京子が部屋を出たあと、
恵は京子が立っていた位置に戻った。


「すみません、仁さん」

「なにがだい?」

「私がついていけなくて。
 慣れた人が良かった?」

「今日は浅野先生の会議があったから
 少し飛ばしたかっただけだよ。

 僕は基本、誰でもいいからねぇ」


"誰でもいい”


その言葉が、恵の中で変に引っかかる。


「誰でもいいんだ。
 この人がいい、とかもないの?」

「それはないこともないけど~…」

「…あるんだ」

「でも、ついてくれるだけで有難いからねぇ
 わがままは言わないことにしてるんだ」

「…私がいいって、いつか、
 思ってもらえるようになれないかな」

「ふふ。どうだろうね」


牧は長い指で十二指腸を持ち上げていた。

これから牧が何をしようとしているのか、
恵には全くわからなかった。



< 85 / 107 >

この作品をシェア

pagetop