君を大人の果実とよぶ。
牧は適当に車を走らせた。
それから、よく使うデートスポットの一つ
である、見晴らしのいい山頂に車を停めた。
以前、京子とも夜景を見に来た場所だ。
京子だけと言わず、
どの子と何回ここに来たのか、
もはや記憶になかった。
山頂には、誰もいなかった。
牧はサイドブレーキをかけて
エンジンを切るも、
恵は車から降りようとしなかった。
「ねぇ、仁さん」
「ん?」
恵の艶めいた声が、車内に漂う。
「ずっと片思いするのって、辛くない?」
牧は眼鏡を外して答えた。
「…辛いねぇ」
恵が作り出すこの雰囲気に、
恵がどんな話をしようとしているのか、
察するに容易だった。
「私も。だから、やめにしたいの」
牧が恵を見ると、
恵は真っすぐに牧を見つめていた。
「仁さんの辛さは、私が埋めてあげる」
今にも泣きだしそうな、
だけど男を誘う、攻めた視線だ。