君を大人の果実とよぶ。
牧が手術室に来るのは、
緊急手術を除けば週に2日だけだ。
それにも関わらず、毎度毎度重みがあるため
毎日顔を見ているような錯覚に陥る。
「いいんですか、こんなところにいて」
牧が今日執刀するのは腹腔鏡下の胃摘出術。
この時間ならもうそろそろ始まってもおかしくない。
「今日は工藤の初ラパ胃執刀なんだー
だから指導者らしく社長出勤してみたの」
と、ピースサイン。
社長出勤にしては早い気がするが、
ここに来ることを見越してのことだとすれば
まあ納得もできる。
「午後からはNSTのラウンドがあるんだよねー」
「そうですか」
京子に歩幅を合わせて、どこまででもついてくる。
「今日仕事終わったら、食事でもどうかな!」
「物品室まで、ついてくる?」
京子は物品室の入り口で牧に向き直った。
大きなもじゃもじゃの犬が、不思議そうに首を傾げる。
「え、ダメ?」
「ダメ!」
「えー、なんでよぉ」
「邪魔!シッシッ」
「あはは、わかったよ~」
ここは浜辺か?
私は今恋人と水の掛け合いっこでもしているのか?
と言いたくなる牧のリアクションがまた暑苦しい。
「じゃーあー」
廊下から物品室に入ったところで、
牧の距離がグンと近くなった。
気づけば棚に背中がつき、
ディスポ製品がかたかたと揺れた。
牧の長い腕と棚の間に閉じ込めれられ、
色付き眼鏡越しの視線が覗いてくる。
ち、近い…
「手洗い行くから、ガウン着せに来てくれる?」
「…はい?」
アハッと笑うと、牧は両手を上げて一歩後ろに下がった。
「ドキッとした?」
「っ~~」
恥ずかしさとイラつきで言葉にならない京子は、
牧の身体をどっと突き飛ばした。
反動で自動ドアをすり抜けて、
廊下に飛び出た牧に詰めよる。
「調子いいこと言ってんじゃないですよ、
この女好きの変態バカ!」
ちっちっち、と指を振る。
「僕は、きょんちゃん好きの天才医師だぞいっ♪」
「自分で言うな!」
「ギャッ‼」
脛を抑えて蹲る牧を置いて、
京子は物品室に踵を返した。
そんな一部始終を遠くから見ていた集団に、
2人が気づくはずもなく…。