イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─

○夏、溺愛なハワイ旅行

「……あ、ほら。海水浴場、今年も混んでるみたい」

夕飯の支度をしながら、ふとテレビに目をやる。

アナウンサーが浮き輪を持ってはしゃぎ、青い波間にカメラが揺れている。

「ねえ律。夏といえば、海だよね。私たちも……行く?」

口にしてみただけだった。

だけど──

「……陽菜を人目にさらすなんて、論外だ」

真顔でそう言われて、私は噴き出した。

「ちょ、律……!」

「だって、俺だけが見ていたい。
ビーチに陽菜がいたら、全員、見るに決まってる」

「なんでちょっと拗ねた顔してるの?」

「拗ねてない。危機管理だ」

「ふふ……相変わらずだなあ」

私は笑った。
夏の風がカーテン越しに入ってきて、二人の間にやわらかく揺れた。

 

──そして、三週間後。

 

「そういえば、来週の休暇……ハワイに行こう」

「え? ハワイ?」

唐突な提案に驚いて顔を上げる。

「……プライベートビーチを手に入れたんだ」

「えっ、それって、え? もともとあったんですか?」

「違う。買った。」

「え……?」

「陽菜のために。今日から俺のものになった」

「ま、待って。プライベートビーチって、そんな簡単に買えるの!?」

「調べたら出てきた。即決だった。
君の水着姿を他人に見せるわけにはいかない」

「……えええええ!? やりすぎ!
っていうか私、水着になるなんて一言も言ってないんだけど!!」

 

──そうして、ハワイ。

  

まばゆい空と、信じられないほど透き通った海。
見渡す限り誰もいない、まさに“陽菜のための”楽園。

「綺麗だね……こうやって見てるだけでも、十分かも」

私が海に目を細めてそう呟くと──

「だめだ」

「え?」

「これを着てもらわないと困る。」

手渡されたのは……黒い、ビキニ。

しかも、布が……少なすぎる。

「ちょ、ちょっと!? これ絶対ムリ!!」

「ムリじゃない。君のために選んだ。これ以外ない」

「絶対ムリ! この生地面積、ハンカチ以下じゃん!」

「君なら着こなせる。……いや、君にしか着こなせない」

「そういう問題じゃないの!!」

 

どんどん詰め寄ってくる律に押され、
ついに私が「着ないから!」と言い放った瞬間。

彼は、ふいっと目をそらし、そのままビーチの向こうへ歩いていってしまった。

「……律?」

ぷい、と本気で怒った背中が、やけに子どもみたいで。

(……もう。かわいくないことだけ、かわいいんだから)

 

私はひとり、ビーチハウスに残された。

(やっぱり着たくない……けど)

波の音だけが聞こえる静かな空間で、心がふと揺れる。

(律、さっき、本当に悲しそうだった……)

 

 

──そして。

ビーチの先でひとり佇んでいた律の前に、
私はそっと、姿を現した。

「……陽菜」

振り返った彼の目が、息を呑む。

黒のビキニ。
目を合わせるのも、まだちょっと恥ずかしくて、私は下を向いた。

「……ちょっとだけ、だからね……」

律の瞳が、熱を帯びて見開かれる。

「さすがのプロポーションだ……っ。陽菜、愛してる!!」

「ええええ!? 声、大きいってば!!」

返事も聞かず、彼はそのまま私を抱きしめてきた。

強くて、熱くて、でも優しい抱擁。

波の音と、律の心臓の音だけが、耳に残っている。

 

「……好きで、好きで、どうしようもない」

「……私だって、こんなあなた、嫌いになれるわけないよ」

 

──そのあとは、ふたりで海の水をかけ合って、笑い合って。
息が切れるまで走って、また抱き合って。

私は、波に揺れながら、心の中でそっと願った。

(こんな時間が、永遠に続けばいいのに)
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