イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─
ゆるやかに波を切るエンジン音と、グラスを傾ける音。

月明かりの下、豪華なクルーザーのデッキには、私と律──ふたりだけ。

 

「……本当に貸し切ったんだね」

グラスの縁を指でなぞりながらつぶやくと、向かいの席で律が微笑んだ。

「当然だろ。ハワイの夜は、陽菜のものなんだから」

「……相変わらず、甘いこと言うよね」

「甘くて何が悪い。夫だぞ?」

「……ふふっ」

 

テーブルの上には、地元のシェフが用意した特別メニュー。
魚介のマリネに、トロピカルなデザート、グラスには微発泡のロゼ。

けれど、何よりも特別だったのは、
見上げれば降るような星空と、どこまでも続く夜の海。

「ねえ、律」

「ん?」

「こういうのって……夢みたいだよね」

「夢だと思うなら、もっと強く抱きしめるよ。現実だって証明するために」

「……やめて、ほんとに船から落とさないでよ?」

「落ちるのは君の方だよ。俺に」

「……ねえ、律?」

「うん?」

「私……今、すごく幸せだよ」

 

その言葉を告げた瞬間。

律の目が、ふと優しく揺れた。

「……それなら、よかった」

「どうして、そんな顔するの?」

「……怖いから」

「え?」

「君が、俺のことを好きでいてくれる今が、あまりにも完璧すぎて……
いつか、この時間が終わってしまうんじゃないかって思うと、怖くなる」

「律……」

「どれだけ抱きしめても、どれだけ愛しても……
『永遠』が保証されるわけじゃないから。
だけど俺は、ずっと君を好きでいたい。
だから──」

彼はグラスを置き、席を立った。

そして私の隣に歩いてきて、ひざまずくようにして手を取る。

「──あらためて誓うよ。
陽菜、これからも何度でも君に恋をして、何度でも愛を伝える。
この先、何十年でも、君だけを『俺の妻』にするって」

 

真剣すぎるその目に、
私は胸の奥がきゅっとなって、言葉が出なくなった。

でも、それでも。

「……うん。私も、約束する。
これからも何度でも、あなたにときめいて生きていく」

そう言って、彼の手をぎゅっと握り返した。

 

夜の海に浮かぶクルーザーの上で、
ただひとつの恋が、静かに、永遠を結んだ。

波音が、ふたりの鼓動に重なるように寄せては返す。

私たちの愛もきっと、
こうして何度でも、新しくなっていくのだろう。
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