イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─

○夏の陽菜に、独占欲は止まらない

「……あっつい!!」

タワーマンションの自動ドアを抜けた瞬間、陽菜は素直な声をあげた。

湿気を帯びた空気がまとわりついてくる。
アスファルトはすでに熱を含んでじりじりと足元から攻めてくる。

「……湿度がひどい。アメリカに帰りたい」

隣でぼそりとつぶやくのは、白いシャツのボタンを上まで留めた葉山律。

この炎天下にネクタイこそしていないが、彼の姿はまるで役員会議のように整っている。

「日本はムシムシしてるもんね……」

陽菜がそう答えた瞬間、律の目がぎょっと大きく見開かれた。

「……陽菜」

「え? なに?」

「その服装は……扇情的すぎる」

「せんじょうてき?」

「男どもをムラムラさせるってことだ!」

そう叫ぶと、律は慌てて自分の大判タオルを陽菜の肩にかけてきた。

「え、ちょっ、なにしてんの。こんなのじゃ隠れないってば!」

「だめだ。家に帰ろう。着替えないと」

「は? なんで!? これ、ノースリーブのブラウスだよ?普通じゃん!」

「君は人妻なのに……そんな格好で街に出るなんて、小悪魔にもほどがある」

「はああ!? 私だって好きな服、着たいの!」

「許さない!」

「──ばか!!」

陽菜は怒りのままに踵を返した。

 

部屋に戻っても、怒りはおさまらない。

(初任給で買った、とっておきのブラウスだったのに……)

涼しくて、デザインも好きで。今日のランチに合わせて選んだ“勝負服”。

(……律のばか。どうせ、ちょっと見えてる肩が気に入らなかったんだ)

ふくれっ面のまま鏡をのぞき込んだ。

そのとき──

「……陽菜!!」

ドアが荒々しく開いた。

振り返ると、息を切らせた律が立っていた。

「え、律!?どうしたの?」

「……ごめん……俺が、悪かった……!」

まさかの土下座寸前ポーズ。
その目には──まさかの涙がにじんでいた。

「うそでしょ!?泣いてるの!?」

「陽菜がいなくなったら……俺は生きていけない……!」

「えっ、えっ、そんなことで!?ブラウスだよ!?ノースリーブだよ!?」

「それでも……俺の太陽が……消えてしまうかと思って……!」

崩れ落ちるように座り込んだ律を見て、陽菜はぽかんとしたまま近づいた。

「律、私も大人げなかった……ごめんなさい。
カーディガンでも羽織ってれば、あんな言い合いにならなかったのに」

気が抜けたら、じんわり目が熱くなった。

(律、こんなに本気で……私のこと……)

「……ほんとはね」

律がぽつりと呟く。

「陽菜をいやらしい目で見ていいのは……俺だけなんだ」

 

「──その一言で台無しなんですけど!?」

陽菜の拳が、軽く律の肩を叩いた。

けれど──ふたりは笑っていた。

いつのまにか、手と手が重なって。
頬が寄って、唇が触れて。
重なる呼吸と、真夏の汗と、止まらない愛情と。

 

その日、ランチの予約は静かにキャンセルされ、
ふたりは真っ昼間から──
ベッドのうえで、
「お互いの存在を確かめ合う」という名の熱愛をくり広げたのだった。
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