イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─

○リッツとわたしと、葉山律

「ユーザーの声に応えたいんだ」
そう言った律の目は、どこまでも真剣だった。

コーヒーも飲まず、睡眠時間も削って。
彼は理想の彼氏アプリ『Velvet』に、ついに新機能――アバター機能を搭載させた。

ユーザーが自由に「理想の彼氏の姿」を作れるという、夢のような機能。

そのテストユーザーに、私は選ばれた。

 

「まず、髪型を選んでください」
「顔の輪郭は?」

アプリの操作は簡単で、パーツを選ぶたびに、まるで魔法みたいに画面の中の「彼」が仕上がっていく。
私は、気がつけば──

「……かっこいい」
思わずつぶやいていた。

栗色の髪。深い茶色の瞳。端整で理知的な輪郭。
気がつけば、私の指は律そっくりのビジュアルを作り上げていた。

名前は「リッツ」に決定。

「よく眠れているかい?」
「今日もきれいだね、陽菜さん」

口調は紳士的で、絶妙な距離感。甘すぎず、優しすぎて、傷つけない。

「けっこう、いいかも……新機能」

ソファでスマホを見ながらぽつりと呟いた私に、
キッチンで皿を洗っていた律が顔だけこちらを向けた。

「そうか。よかった」
どこか、声が低かったのは気のせい……だったのかもしれない。



新機能は見事大ヒット。
アバター機能を搭載したVelvetは、SNSで瞬く間にバズり、「過去最高益更新」のニュースが躍った。

街のインタビューでも──

「もう彼氏とかいらない」
「Velvetと結婚したい!」

そんな声がテレビの中に流れる。


ソファに寝そべっていた私は、つい夢中でスマホをタップしながら笑ってしまった。

「リッツ♡だいすきだよ〜」
 

「……そんなことないよな、陽菜?」

律の低い声が、リビングの空気を割った。

「……陽菜?」

気づけば、私の肩越しに鋭い視線が突き刺さっていた。

「リッツ、今日もかっこ──わっ!? り、律……!」

「……きぃ~~~~~~~!!!」
律が、まるで魔王のような呻き声をあげる。

「ま、待って!今のは……!」

「消す、消す、Velvet、リッツ、おのれ……」
律の口元が、呪文のように同じ言葉を繰り返し始める。

会話が、成立しない。



そして、翌日。

Velvetから事前告知なしに「アバター機能」が突如、廃止された。

SNSは大炎上。
「は!?Velvet返して!」「婚約破棄された気分」
社内からも「え、律さん何考えて……」と困惑の声。


けれど、律は涼しい顔をして記者会見で語った。

「少子化問題を加速させる恐れがあり、社会的責任を感じ、今回の決断に至りました」



テレビを見ながら、私はため息をついた。

「ほんと……ばかなんだから」

リモコンを置いて、振り返る。
そこには、スーツのまま真剣な顔の律が立っていた。

「それでも、陽菜の関心は……自分だけに向けたい。リッツは、殺した」

「殺した……って言わないでよ!物騒!」

思わず笑ってしまった。

律の腕の中に飛び込むと、ぎゅっと強く抱きしめられた。

 

「もう浮気しないでよ、アプリ相手でも」
「するわけないでしょ」

「じゃあ証明して。……今夜、ちゃんと俺のことだけ、好きって言って?」

「はいはい」

私は頷いて、今度は彼の胸に頬をすり寄せた。

 

Velvetのアバター機能は世界から消えたけど。
私には、唯一無二の「本物」がいる。

ちょっと嫉妬深くて、可愛くて、
──そして、誰よりも私を大切にしてくれる人が。
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