イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─
○理想の彼女、「Hinaモード」
それは、世界をもう一度ざわつかせる予感に満ちた会議だった。
ニューヨークの高層オフィス、ガラス張りの会議室に向かい合って座るふたり。ひとりは、Corven社CEOの葉山律。
もうひとりは、元全米チアリーディング女王であり、現在はAI倫理顧問を務めるエリザベス・ウィンザー。
「理想の彼女アプリ、ですって?」
スレンダーな指先でグラスをくるくる回しながら、エリザベスが面白そうに笑う。
「Velvetの男性版。──女性に詳しい君と、僕で作る」
「ふぅん。やっと私の時代ね」
彼女の目が、いたずらっぽく光る。
ふたりの提示した「理想の彼女像」は、まったく正反対だった。
エリザベスが設計したのは、《クイーンタイプ》。
自立した大人の女性。芯が強く、的確なアドバイスと知性で男性の背中を押す、言ってみれば「理想の上司」のような存在だった。
一方、律が提示したのは、《Hinaモード》。
奥ゆかしく、優しく、努力家の恋人。言葉少なに見守り、ときに笑顔で励ましてくれる……まるで、陽菜そのもの。
リリース初日から、社会現象が起きた。
《クイーンタイプ》は、意外にも弱気な男性たちの心を鷲掴みにした。
「彼女に怒られたい」「叱られながら甘えたい」「率直に言って、貢ぎたい」
AIとはわかっていても、「彼女」に褒められたい、認められたい……そんな欲望が溢れ、熱狂的なファンを生み出した。
あるユーザーは、自社株を売ってまでCorven社に多額の献金をし、「クイーンの継続をお願いします」と直筆の手紙を送ったという。
社員の間では密かに「AIに課金する貴族たち」と呼ばれていた。
一方、《Hinaモード》は日本を中心に爆発的ヒット。
「一日中『おつかれさま』って言ってくれる……泣いた」 「もう現実の恋人いらない、Hinaだけでいい」 「陽菜さんと結婚したい(※アプリ)」
SNSにはハッシュタグ《#Hina沼》が日々増殖し、ユーザー数は過去最高記録を更新し続けていた。
その状況に──
「『Hinaモード』って……ほんと恥ずかしい。律、やめてよ……」
陽菜は、画面越しの自分そっくりなアバターに顔を赤らめる。
「やめない。僕の理想は、君だけだから。名前として残したい」
「……バカ」
呆れて、笑った。
富も地位も手にした今でも、律の言葉は変わらない。
君は、唯一無二だと。
そうしてCorven社は、ふたたび時代の頂点へと躍り出る。
だが、律にとって何よりも大切なのは──
「……おかえり、陽菜」
帰れば、君がいることだった。
ニューヨークの高層オフィス、ガラス張りの会議室に向かい合って座るふたり。ひとりは、Corven社CEOの葉山律。
もうひとりは、元全米チアリーディング女王であり、現在はAI倫理顧問を務めるエリザベス・ウィンザー。
「理想の彼女アプリ、ですって?」
スレンダーな指先でグラスをくるくる回しながら、エリザベスが面白そうに笑う。
「Velvetの男性版。──女性に詳しい君と、僕で作る」
「ふぅん。やっと私の時代ね」
彼女の目が、いたずらっぽく光る。
ふたりの提示した「理想の彼女像」は、まったく正反対だった。
エリザベスが設計したのは、《クイーンタイプ》。
自立した大人の女性。芯が強く、的確なアドバイスと知性で男性の背中を押す、言ってみれば「理想の上司」のような存在だった。
一方、律が提示したのは、《Hinaモード》。
奥ゆかしく、優しく、努力家の恋人。言葉少なに見守り、ときに笑顔で励ましてくれる……まるで、陽菜そのもの。
リリース初日から、社会現象が起きた。
《クイーンタイプ》は、意外にも弱気な男性たちの心を鷲掴みにした。
「彼女に怒られたい」「叱られながら甘えたい」「率直に言って、貢ぎたい」
AIとはわかっていても、「彼女」に褒められたい、認められたい……そんな欲望が溢れ、熱狂的なファンを生み出した。
あるユーザーは、自社株を売ってまでCorven社に多額の献金をし、「クイーンの継続をお願いします」と直筆の手紙を送ったという。
社員の間では密かに「AIに課金する貴族たち」と呼ばれていた。
一方、《Hinaモード》は日本を中心に爆発的ヒット。
「一日中『おつかれさま』って言ってくれる……泣いた」 「もう現実の恋人いらない、Hinaだけでいい」 「陽菜さんと結婚したい(※アプリ)」
SNSにはハッシュタグ《#Hina沼》が日々増殖し、ユーザー数は過去最高記録を更新し続けていた。
その状況に──
「『Hinaモード』って……ほんと恥ずかしい。律、やめてよ……」
陽菜は、画面越しの自分そっくりなアバターに顔を赤らめる。
「やめない。僕の理想は、君だけだから。名前として残したい」
「……バカ」
呆れて、笑った。
富も地位も手にした今でも、律の言葉は変わらない。
君は、唯一無二だと。
そうしてCorven社は、ふたたび時代の頂点へと躍り出る。
だが、律にとって何よりも大切なのは──
「……おかえり、陽菜」
帰れば、君がいることだった。