イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─
部屋の襖を閉めた陽菜は、ぽすんと畳に座り込んだ。
旅館の静けさが、逆に胸の中にわだかまったもやもやを膨らませていく。
(どうして、あんな言い方しかできないの……)
陽菜は自分の浴衣の襟を見下ろす。たしかに、少し開きすぎていたかもしれない。
だけど、それも浴衣ならではの涼しさと華やかさを意識しただけだった。
(私だって……律に綺麗だって思われたかっただけなのに)
手のひらが膝の上できゅっと握られる。
──トン、と音がした。廊下から、走ってきた誰かの足音。次の瞬間、襖が開き、見慣れた人影が立っていた。
「……律?」
乱れた呼吸。汗で額に張りついた髪。律は息を整えることも忘れたまま、陽菜の目の前に膝をついた。
「……ごめん」
声はかすかに震えていた。
「君を独り占めしたくて、でも……うまく言えなかった」
そう呟いた律の瞳には、さきほどとは打って変わって、素直すぎるほどの感情が宿っていた。
陽菜の胸がちくりと痛んだ。
「……心配してくれてたの、分かってた。でも、急に怒鳴られたら……やっぱり、悲しかったよ」
ふたりの間に、短い沈黙が落ちる。
やがて、律はそっと手を差し出した。陽菜がその手に触れた瞬間、ふわりと身体が浮く。
「えっ、ちょっ……!」
「危ない。君は今、特に危険だ。視線を集めすぎる」
そのまま、律は陽菜をお姫様抱っこで持ち上げた。
驚く陽菜の髪が、彼の肩口で揺れる。
「ちょ……律、どこ行くの!?」
「俺の部屋だ」
「えええええっ!!?」
畳の上でくすぐったく笑い声が転がる。
すれ違い、誤解、やきもち、反省、謝罪。
いろんな感情をめぐって、ようやく通じ合ったふたりの距離は、今夜ぐっと縮まった。
その夜──
律の腕の中で眠りについた陽菜に、社員旅行はまさかの寝不足という結果をもたらすのであった。
*
旅行最終日。
チェックアウトのロビーで、水野がふたりに声をかけた。
「おふたりとも、お疲れさまでした。……仲直りできたようで、何よりです」
「……ああ。助言、感謝している」
律が礼を述べると、水野はどこかさみしそうに、けれど心からの笑みを浮かべた。
「また機会があれば、筋トレでもご一緒に」
「考えておこう……」
そう答えた律の背後で、陽菜がくすっと笑った。
高級旅館から出るバスの中。
陽菜は律の肩に頭をもたれかける。律は彼女の髪をそっと撫でながら、車窓の先にある未来を思った。
そこにきっと、もっと深くて確かな絆が待っている──そう信じられる社員旅行となった。
旅館の静けさが、逆に胸の中にわだかまったもやもやを膨らませていく。
(どうして、あんな言い方しかできないの……)
陽菜は自分の浴衣の襟を見下ろす。たしかに、少し開きすぎていたかもしれない。
だけど、それも浴衣ならではの涼しさと華やかさを意識しただけだった。
(私だって……律に綺麗だって思われたかっただけなのに)
手のひらが膝の上できゅっと握られる。
──トン、と音がした。廊下から、走ってきた誰かの足音。次の瞬間、襖が開き、見慣れた人影が立っていた。
「……律?」
乱れた呼吸。汗で額に張りついた髪。律は息を整えることも忘れたまま、陽菜の目の前に膝をついた。
「……ごめん」
声はかすかに震えていた。
「君を独り占めしたくて、でも……うまく言えなかった」
そう呟いた律の瞳には、さきほどとは打って変わって、素直すぎるほどの感情が宿っていた。
陽菜の胸がちくりと痛んだ。
「……心配してくれてたの、分かってた。でも、急に怒鳴られたら……やっぱり、悲しかったよ」
ふたりの間に、短い沈黙が落ちる。
やがて、律はそっと手を差し出した。陽菜がその手に触れた瞬間、ふわりと身体が浮く。
「えっ、ちょっ……!」
「危ない。君は今、特に危険だ。視線を集めすぎる」
そのまま、律は陽菜をお姫様抱っこで持ち上げた。
驚く陽菜の髪が、彼の肩口で揺れる。
「ちょ……律、どこ行くの!?」
「俺の部屋だ」
「えええええっ!!?」
畳の上でくすぐったく笑い声が転がる。
すれ違い、誤解、やきもち、反省、謝罪。
いろんな感情をめぐって、ようやく通じ合ったふたりの距離は、今夜ぐっと縮まった。
その夜──
律の腕の中で眠りについた陽菜に、社員旅行はまさかの寝不足という結果をもたらすのであった。
*
旅行最終日。
チェックアウトのロビーで、水野がふたりに声をかけた。
「おふたりとも、お疲れさまでした。……仲直りできたようで、何よりです」
「……ああ。助言、感謝している」
律が礼を述べると、水野はどこかさみしそうに、けれど心からの笑みを浮かべた。
「また機会があれば、筋トレでもご一緒に」
「考えておこう……」
そう答えた律の背後で、陽菜がくすっと笑った。
高級旅館から出るバスの中。
陽菜は律の肩に頭をもたれかける。律は彼女の髪をそっと撫でながら、車窓の先にある未来を思った。
そこにきっと、もっと深くて確かな絆が待っている──そう信じられる社員旅行となった。