イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─
「──えっ!? 私が……司会?」

会議室に響いた自分の声に、思わず口を押さえる。

イベント担当チームの会議中。
来週に控えた社内表彰式で、進行役を任されることになった。
なぜか、よりによって、私が。

「えーと……その、急でごめんなさい!
でも望月さんって声が聞き取りやすくて、以前のプレゼン資料も丁寧だったって評判で……」

後輩社員がぺこぺこ頭を下げる。

(そんなの、褒め言葉じゃなくて罠です!)

「ど、どうして私なんですか……!」

心の中では半泣きだった。

私は裏方気質。
人前で話すのが得意なタイプじゃない。
表彰式なんて、社長や役員も出席するのに──

(……社長)

瞬間的に、脳裏にあの甘すぎる顔が浮かぶ。

(あの人、これ知ってたら絶対……)


──案の定だった。

その日の夜。リビングのソファに座った律に、それとなく報告してみたら、

「ほう……壇上に立つんだね。君が」

紅茶を置く手が止まり、ふっと笑ったその顔が、まるで“獲物を前にした狼”だった。

「……やっぱり知ってたの?」

「もちろん。むしろ推薦したの、俺」

「はああああ!?!?」

「だって、君は可愛いし。緊張してる姿も美しいし。壇上で君が話すなんて、全社員に見せたくなるだろ?」

「……あの、私、社長のコレクションじゃないんですが?」

「俺の世界遺産だけどね」

「本気で言ってる!?」

もうムリ、この人どうにかして。

でも、律はまっすぐに言った。

「怖かったら言って。壇上じゃなくても、君の声を一番に聞きたいのは俺だから」

──ズルい。

その一言で、どれだけ不安が薄れたか。
どれだけ心が軽くなったか。
本人は、きっと気づいていない。



翌日。控室で司会原稿を抱えてガチガチに固まっていた私の前に、そっと差し出されたのは、小さな飴だった。

「……水野さん」

「緊張しているときは、甘いものが効きます」

彼は、にこりともしないまま、静かに言った。

「本番、隣で cue 出します。あなたが間違えても、誰も責めたりしません。僕が全部フォローしますから」

それだけを告げて、彼は原稿のチェックに戻った。

(……ほんと、ずるい人が多すぎる)

私は小さく笑って、飴の包みをそっと開けた。

 

(――大丈夫。壇上の下にも、味方はいる)
< 3 / 34 >

この作品をシェア

pagetop