イケメンIT社長に求婚されました─結婚後が溺愛本番です!─
「……もう。着替えさせてよ」

私はエプロンの紐を握ったまま、ため息をついた。

朝のキッチン。
卵焼きを焼こうとしたその瞬間、後ろからぐいっと腰を抱かれた。

「あとちょっとだけ、こうしてたい」

「もう『ちょっと』が、十分経ってるけど」

「足りない」

低くて甘い声が、耳たぶに触れる。

「昨夜あれだけしても?」

「うん。……むしろ、だからこそ、もっと欲しくなった」

律の指先が、エプロンの上から私の腰をなぞる。

その動きが、妙に器用で、どこかいやらしくて──

「や、やめてっ。朝なんだからっ……!」

「朝でも夜でも、君は俺の奥さんでしょ?」

そのひと言で、心臓が跳ねた。

(「奥さん」なんて。何気なく言うの、ずるい)

「……ねえ、そうやってベタベタしてると、会社行きたくなくなるよ?」

「じゃあ、行かない?」

「……え?」

「会社、休んでふたりで過ごすってのも、悪くない。今日の俺、たぶん社員に嫉妬するから」

その目が、本気だった。

「もう、子どもじゃないんだから!」

私は笑って、彼の額に指でツンと触れる。

「……でも私、律が今日もちゃんと『社長』するって、知ってる。私も頑張らなきゃね」

「それ、反則」

「え?」

「そういうこと言われると、ほんとに休みたくなる」


律は、私をくるりと回して向かい合わせにすると、
真剣な顔で、そっと額を重ねてくる。

「君の全部を、誰にも見せたくない。
けど、君の頑張る姿は、やっぱり誰よりも美しいと思った。……昨日、ずっと思ってた」

「律……」

「でも、どんな君でも、俺が一番好きってことだけは、覚えといて」

 

朝日が差し込むキッチン。
コーヒーの香りと、彼の声と、温かい手。

その全部が、私にとっての「愛されている実感」だった。

「……うん。忘れないよ」

私はそっと目を閉じて、律の胸に額を預けた。

──きっと私は、この人に毎日、恋をし直していくんだと思う。
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