運び野郎と贋作姫
 八歳になった頃。
 数ヶ月にも及ぶ大作の模写をし終えた。
 色味、タッチ。
 見本通りに塗れるようになるまで、何度もやり直しをさせられた。
 文句のつけどころのない出来栄えに大満足した私は、誇らしさでいっぱいになりながら「あやか」と描きいれた。
 ところが父に見つかり、激怒された。
 「これでは他人が描いたと丸わかりだろう! なにをやっているんだ、お前はっ」
 怒られたことより、私の作品だと認めてもらえなかったことがショックだった。
 「納期もあるのに馬鹿娘が! すぐに剥ぎ取れっ」
 父は怒鳴りつけるや、ペインティングナイフを差し出してきた。
 いやだ。
 これは私の作品だ。
 私が拒絶の意味で頭を横に振ると、かんかんに怒った父はキャンバス地が見えるくらい絵の具を削りとってしまった。
 「いいか、きちんと期限までに完了させないと飯抜きだからなっ」
 父は、ショックで固まった私にナイフを投げつけると、部屋を出て行った。
 「……なんでぇ……」
 何度も何度も、同じタッチと色を出すためにやり直したのに。
 ようやく完成したのに。
 「どぉして私の名前を描いちゃいけないのぉ……」
 私は怒りと悲しみを抱えて、ふらふらと部屋から出た。

 ……気がつくと、知らない町にいた。
 というより、私は父に贋作の腕前を認められてからというもの、家から出してもらったことがなかった。
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