運び野郎と贋作姫
「ここ、どこ?」
 初めての場所は、興味深いというよりも不気味で怖くて仕方なかった。
 あの部屋以外知らなかった私は、絵画の中でしか見たことのない父以外のヒトや建物、植物に怯えた。
 テレピン油やキャンバス、木炭以外の匂いに吐きそうになる。
 「う、えっ」
 たまらず、かがみ込んだ時。
 「電柱」に寄せられた「ゴミ袋」の合間から手がにゅ、と突き出ているのを見た。
 びっくりして吐き気はどこかに飛んでしまった。
 恐々とのぞいてみれば、私と同じくらいのサイズのヒトが血だらけになって横たわっている。
 「……ヒト……?」
 学校は行っていないけれど、父からは『モホウヘノリカイヲフカメルタメ』と称し、原書や歴史書、絵画を描くための道具についての資料集などは読ませられれいる。
 それに色々な絵画を見せられていたから、それが自分と同じ種族であることは知っている。
 けれど、父以外で生きているヒトを見たことは久しぶりだった。
 「髪の短さや、洋服からすると……『少年』かな」
 大抵の場合、父と同じ種族の『男』は短い髪でズボンを履いていて、男の子供が『少年』だ。
 私は『女』で子供だから『少女』だ。
 だけど絵画の中の瀕死の人物より、目の前の「少年」のほうが具合悪そうだ。
 どうすればいいのだろう。
 なにをしていいかわからずに立ちすくんでいると、父に「肌身離さず持っていろ」と言われていた携帯が鳴った。

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