【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「お疲れー。山崎さん、もう上がり?」

声をかけたのは児玉。
フロアの端で資料の山と格闘していた山崎が、顔を上げて小さく会釈する。

「お疲れさまです。いえ、今ちょっとだけ外のフリースペースで作業しようかと。ファイル、こっちの方が広げやすくて」

「なるほどね。じゃあ、ちょっとだけお喋りつき合ってよ。……って言ったら迷惑?」

「いえ、大丈夫ですよ。少しなら」

山崎が手に持っていたファイルを抱え直すと、児玉は彼女の歩調に合わせて並んで歩き出す。

「さっき、隼人と成瀬さんが打ち合わせに来てたでしょ?」

「はい、見かけました」

「なんかさー、あいつ、変わったよな。付き合い始めてから」

「……変わった、ですか?」

「うん。前はもうちょいトゲトゲしてた。いや、今でも十分アレなんだけどさ。最近は感情が顔に出るっていうか。今日も新人くんにヤキモチ焼いてたよ」

山崎は思わず笑ってしまう。

「一条先生が……嫉妬ですか? 意外です」

「だろ? でもあれ本気で我慢してたと思うよ。あいつ、感情を律するのが“当たり前”なやつだから。逆に、それでも顔に出るって相当ってこと」

山崎は、ほんの少し視線を落としながら、ぽつりと口を開く。

「でも……成瀬さんって、なんか納得です。女の私からしても華があるし、柔らかくて優しげで、でも芯があって。理想的な女性って感じで」

「ふむふむ、なるほど。理央さんから見ると、そう見えるのか」

「はい……私なんて、ほんと“お堅い”って感じで。“ザ・弁護士”って言葉がぴったりで……」

どこか自嘲するような口調に、児玉はふと真面目な顔で言った。

「そう? 山崎さんも優しそうだけどね。話してると、ちゃんと人の言葉を拾ってくれるのがわかる」

「……ありがとうございます」

山崎は少しはにかみ、視線を逸らすように手に持ったファイルを抱え直した。

「じゃあ、私はこれで。フリースペース、混んでないといいんですけど」

「おう、がんばって」

軽く手を振る児玉の横をすり抜けるようにして、山崎は静かに歩き出した。
背筋は真っ直ぐ伸びていたけれど、口元はほんの少しだけ、緩んでいた。
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