【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
正義の形を問うとき
「それでは、最終の合同対策会議を始めます」
広報室の課長が静かに口を開き、会議室に緊張が走った。
一堂に会したのは、法務部、事故対応部門、広報、経営陣、情報収集チーム──そして、月島総合法律事務所の顧問弁護士である一条と児玉。
重たく空気の張った会議室の中、紬は事故対応部門の一員として、まっすぐ前を見据えて座っていた。
熱で倒れてから数日ぶりの出勤だが、その表情には再び芯のある意志が戻ってきていた。
「まずは、これまでの法的対応の経緯について、顧問の一条先生よりご説明いただきます」
法務部長の言葉に促され、一条が立ち上がる。
紺のスーツに身を包み、いつも通りの落ち着いた声で口を開いた。
「月島法律事務所の一条です。今回は、当初から私どもが支援してきた立場から、法的対応の全体像と、ここに至るまでの事実経過についてご説明させていただきます」
会議室に並ぶ資料とスライドが切り替わり、高森による一連のSNS投稿や、それに伴う仮処分申立、削除請求の進捗が報告されていく。
「現在、高森氏による投稿の多くが本人によるものである可能性が高く、すでに一部IP照合を行っています。また、拡散された虚偽の情報については、裁判所を通じて削除の仮処分を取得。検索結果の非表示処理も複数進行中です」
児玉が補足するようにPC画面を操作し、広報と情報収集チームからも頷きが漏れた。
続けて一条は、やや声を落として語った。
「我々の調査では、高森氏は初期段階から、事故の実態と異なる主張を意図的に行い、保険会社を同時に巻き込む形で“話題性”を作り出していました。その背景には、特定のインフルエンサーとの接点、広告収入を目的としたアフィリエイト導線も見られました」
ざわ、と微かに会議室がざわついた。
一条は目線だけでその空気を制し、落ち着いた声で続ける。
「つまり、今回の件は“被害者と企業の対立”ではなく、意図的に企業を巻き込み“金銭化”しようとした高度な情報戦略でした。個人が企業を潰しかける構造が、法のグレーゾーンで横行しています」
重苦しい沈黙のあと、法務部長が資料をめくりながら語った。
「今回、早期に顧問弁護士と連携できたことで、大きな炎上や企業イメージの失墜は防げました。しかし、同様の事例は今後も起こりうる。リスクマネジメントと早期対応、そして何より“社員を守る”姿勢が、今後さらに問われるはずです」
紬の心が、少しだけ熱を帯びた。
片山がその流れを受けて、ゆっくりと発言する。
「事故対応部門の現場では、情報の急激な拡散と、対応方針の揺らぎのなかで、精神的な負荷が非常に高かった。今後は、法務部・広報・現場がもっと横の連携を強め、現場一人ひとりが孤立しない体制を構築します」
視線が自然と紬に集まる。
彼女は静かに会釈した。
「……それでも、今回の経験は無駄じゃなかったと思っています」
静かな声で、紬が言った。
「誰かの“作られた被害”が、本当の加害になることを、この仕事で初めて知りました。でも、その中で、一緒に考えて、動いてくれた人がたくさんいました。だから、もう一度、ちゃんと前を向いて進みたいと思います」
言葉に詰まった一瞬の沈黙を、今度は一条の静かな声がつないだ。
「企業も、社員も、顧客も、誰も“正しさ”だけで守られるとは限りません。だからこそ、こうした対応力を、仕組みにしていく必要があります」
その言葉を、経営陣が静かに、深く頷いて受け止めた。
広報室の課長が静かに口を開き、会議室に緊張が走った。
一堂に会したのは、法務部、事故対応部門、広報、経営陣、情報収集チーム──そして、月島総合法律事務所の顧問弁護士である一条と児玉。
重たく空気の張った会議室の中、紬は事故対応部門の一員として、まっすぐ前を見据えて座っていた。
熱で倒れてから数日ぶりの出勤だが、その表情には再び芯のある意志が戻ってきていた。
「まずは、これまでの法的対応の経緯について、顧問の一条先生よりご説明いただきます」
法務部長の言葉に促され、一条が立ち上がる。
紺のスーツに身を包み、いつも通りの落ち着いた声で口を開いた。
「月島法律事務所の一条です。今回は、当初から私どもが支援してきた立場から、法的対応の全体像と、ここに至るまでの事実経過についてご説明させていただきます」
会議室に並ぶ資料とスライドが切り替わり、高森による一連のSNS投稿や、それに伴う仮処分申立、削除請求の進捗が報告されていく。
「現在、高森氏による投稿の多くが本人によるものである可能性が高く、すでに一部IP照合を行っています。また、拡散された虚偽の情報については、裁判所を通じて削除の仮処分を取得。検索結果の非表示処理も複数進行中です」
児玉が補足するようにPC画面を操作し、広報と情報収集チームからも頷きが漏れた。
続けて一条は、やや声を落として語った。
「我々の調査では、高森氏は初期段階から、事故の実態と異なる主張を意図的に行い、保険会社を同時に巻き込む形で“話題性”を作り出していました。その背景には、特定のインフルエンサーとの接点、広告収入を目的としたアフィリエイト導線も見られました」
ざわ、と微かに会議室がざわついた。
一条は目線だけでその空気を制し、落ち着いた声で続ける。
「つまり、今回の件は“被害者と企業の対立”ではなく、意図的に企業を巻き込み“金銭化”しようとした高度な情報戦略でした。個人が企業を潰しかける構造が、法のグレーゾーンで横行しています」
重苦しい沈黙のあと、法務部長が資料をめくりながら語った。
「今回、早期に顧問弁護士と連携できたことで、大きな炎上や企業イメージの失墜は防げました。しかし、同様の事例は今後も起こりうる。リスクマネジメントと早期対応、そして何より“社員を守る”姿勢が、今後さらに問われるはずです」
紬の心が、少しだけ熱を帯びた。
片山がその流れを受けて、ゆっくりと発言する。
「事故対応部門の現場では、情報の急激な拡散と、対応方針の揺らぎのなかで、精神的な負荷が非常に高かった。今後は、法務部・広報・現場がもっと横の連携を強め、現場一人ひとりが孤立しない体制を構築します」
視線が自然と紬に集まる。
彼女は静かに会釈した。
「……それでも、今回の経験は無駄じゃなかったと思っています」
静かな声で、紬が言った。
「誰かの“作られた被害”が、本当の加害になることを、この仕事で初めて知りました。でも、その中で、一緒に考えて、動いてくれた人がたくさんいました。だから、もう一度、ちゃんと前を向いて進みたいと思います」
言葉に詰まった一瞬の沈黙を、今度は一条の静かな声がつないだ。
「企業も、社員も、顧客も、誰も“正しさ”だけで守られるとは限りません。だからこそ、こうした対応力を、仕組みにしていく必要があります」
その言葉を、経営陣が静かに、深く頷いて受け止めた。