【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
出社するのは、およそ一週間ぶりだった。
マスク越しに吸い込む朝の空気が、ほんの少しひんやりとしていて心地よい。
駅から会社に向かう道は何も変わらず、けれど――どこか久しぶりのような、不思議な感覚がする。
エントランスを抜けて、自席のあるフロアに足を踏み入れた瞬間だった。
「あっ、紬さん!」
最初に駆け寄ってきたのは、後輩の佐藤だった。
「あの、だいじょぶでした? なんかすごい熱が出たって聞いて……ずっと心配で……!」
「うん、大丈夫。ありがとうね、佐藤くん」
ぺこりと頭を下げると、佐藤は子犬みたいにホッとした顔で笑った。
そのまま席に向かおうとすると、今度は同僚の茜と、あかりが立ち上がって近づいてきた。
「紬、おかえり。ほんとに、無理しないでよね」
「うん……でも、元気になったから」
「まぁ、とりあえず復帰祝いで、後で甘いもの差し入れるから。でしょ、茜?」
「うん、チョコ系のやつにしようって相談してたとこ」
「ありがとう……ほんとに、嬉しい」
紬の目元がふわりと緩んだ。
デスクに座ると、モニターの端に、こっそりと貼られた付箋が目に入った。
――『Welcome back!ムリしないでね(^^)from 広報チーム』
思わず、ふっと息が漏れる。
そのとき、奥のデスクから現れた片山が、書類を片手に近づいてきた。
「成瀬さん。まずは復帰おめでとう。連絡くれた一条先生からも、きつく言われてるからね。まだ完調じゃないなら、ペースは落としてもらって構わないから」
「……ありがとうございます。ご迷惑をおかけして、すみません」
ぴたりと頭を下げると、片山は苦笑した。
「謝ることじゃないよ。無理しなきゃできない仕事なんて、意味がないんだから」
そう言って、そっと机の上に温かいカップを置いていく。
――カフェの紙カップ。どうやら出社前に買ってきてくれたらしい。
「あったかいの、好きだったよね?」
「……はい」
その瞬間、紬の胸の奥で、なにかが静かに解けていった。
頑張りすぎて、何も見えなくなっていた。
でも、こうして迎え入れてくれる人がいる。
心配してくれる人がいる。
それだけで、肩の力が少し抜けて――深く、息を吐き出せた。
マスク越しに吸い込む朝の空気が、ほんの少しひんやりとしていて心地よい。
駅から会社に向かう道は何も変わらず、けれど――どこか久しぶりのような、不思議な感覚がする。
エントランスを抜けて、自席のあるフロアに足を踏み入れた瞬間だった。
「あっ、紬さん!」
最初に駆け寄ってきたのは、後輩の佐藤だった。
「あの、だいじょぶでした? なんかすごい熱が出たって聞いて……ずっと心配で……!」
「うん、大丈夫。ありがとうね、佐藤くん」
ぺこりと頭を下げると、佐藤は子犬みたいにホッとした顔で笑った。
そのまま席に向かおうとすると、今度は同僚の茜と、あかりが立ち上がって近づいてきた。
「紬、おかえり。ほんとに、無理しないでよね」
「うん……でも、元気になったから」
「まぁ、とりあえず復帰祝いで、後で甘いもの差し入れるから。でしょ、茜?」
「うん、チョコ系のやつにしようって相談してたとこ」
「ありがとう……ほんとに、嬉しい」
紬の目元がふわりと緩んだ。
デスクに座ると、モニターの端に、こっそりと貼られた付箋が目に入った。
――『Welcome back!ムリしないでね(^^)from 広報チーム』
思わず、ふっと息が漏れる。
そのとき、奥のデスクから現れた片山が、書類を片手に近づいてきた。
「成瀬さん。まずは復帰おめでとう。連絡くれた一条先生からも、きつく言われてるからね。まだ完調じゃないなら、ペースは落としてもらって構わないから」
「……ありがとうございます。ご迷惑をおかけして、すみません」
ぴたりと頭を下げると、片山は苦笑した。
「謝ることじゃないよ。無理しなきゃできない仕事なんて、意味がないんだから」
そう言って、そっと机の上に温かいカップを置いていく。
――カフェの紙カップ。どうやら出社前に買ってきてくれたらしい。
「あったかいの、好きだったよね?」
「……はい」
その瞬間、紬の胸の奥で、なにかが静かに解けていった。
頑張りすぎて、何も見えなくなっていた。
でも、こうして迎え入れてくれる人がいる。
心配してくれる人がいる。
それだけで、肩の力が少し抜けて――深く、息を吐き出せた。