【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「ここ、空いてますか?」

そう言いながらトレイを手にした佐藤が、当たり前のように茜の隣に腰を下ろした。

ランチタイムの定食屋、会社から少し離れた、落ち着いた雰囲気の店だ。

紬は、隣に座るあかりと目を合わせて笑う。

「なんか、最近佐藤くん、茜の隣が定位置になってるよね?」

からかうように言うと、茜は「別に、どうでもいいでしょ」とそっけなく返し、佐藤は「え、あの、偶然です!」と焦って言い訳する。

ご飯をかきこみながら目線だけはやたら紬のほうに向けられていて、それがまた可笑しい。

すると、あかりが口火を切った。

「ほんっと、心配したよ。片山さんが『一条先生から欠勤の連絡が来た』って言ったとき、電話もできないほどヤバいの?って思った。前みたいに突撃できないし、もう一人暮らしじゃないしさ」

「うん、ごめんね、心配かけて……。夜中に一条さんに救急病院、連れてってもらって。過去一やばかった、ほんと」

紬はそう言って笑いながら、冷奴を口に運ぶ。
その笑顔にようやく安堵したのか、あかりも肩の力を抜いてにっこりする。

だが、佐藤はぽかんとした顔のままだった。

「え……一条さんが……病院……連れて……?」

そのきょとん顔に、あかりがくすっと笑いながら肘で佐藤の腕を突く。

「ああ、佐藤に言ってなかったか。紬はね、あの冷徹弁護士の“溺愛彼女”だから。もう、諦めなさい」

「えっ、いや、あのっ、僕は全然、そんなっ、いやっ……!」

慌てふためく佐藤の反応がわかりやすすぎて、紬は吹き出してしまった。
喉の奥に少し味噌汁が引っかかって、むせそうになる。

(……やっぱり、隼人の目は確かだったか)

「その新人くん、紬のこと好きだよ」

以前、隼人がぼそりと言ったあの一言を思い出す。

それでも佐藤の存在は、今となっては微笑ましくもあり、どこか救いのようにも感じていた。

あの日々を乗り越え、こうしてまた笑いながら定食を囲める時間が戻ってきたこと――それが、何よりも尊く感じられた。
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