【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
休憩室。午後の小休止、ほんのひとときの静けさ。

コーヒーを片手に、佐藤がぽつりと話し出す。

「……あの、先輩。僕が初めて先輩と一緒に、一条さんの法律事務所に行った日、覚えてます?」

「うん。何かあった?」

「いや……あの日……。一条さん、僕のことめっちゃ睨んでた気がするんですけど……」

「……うん。たぶん、嫉妬に狂ってたと思う」

「……えっ」

佐藤の顔が、漫画のように固まる。

「す、すみませんっ!僕、何も知らずに……!」

真面目すぎるほど律儀に頭を下げる佐藤に、紬は慌てて手を振った。

「いやいや、言わなかった私が悪いし。一条さんも、今は別になんとも思ってないよ。カレー食べさせとけば、機嫌なおるし」

「……カレーで……」

想像したのか、佐藤はぽつりとつぶやいた。

「……ああ見えて、そんな可愛いとこあるんですね。一条先生」

「ふふ、あるんだよ、そういうとこ」

自分しか知らない隼人の一面を思い出しながら、紬はどこか得意げに笑った。

夕暮れに向かって、フロアに差し込む陽が少しずつオレンジを帯びていく。

過ぎていく日々の中で、何気ない一瞬一瞬が、紬にとってはかけがえのないものになっていた。
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