【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
ランチタイムの穏やかな空気の中、定食屋のテーブルを囲んだ三人の会話は、どこか軽やかで、しかし紬にとっては少し緊張感もあった。

「あのさ、紬、今日遅刻ギリギリだったじゃん。何があったの?正直に話してみてよ」
あかりが目を輝かせながら、まるで真剣な聞き手のように紬を見つめる。

「うん……あのね、実は……」
紬は視線を落とし、そっと息を吐いた。
彼女の頬はほんのりと染まり、まるで夏の夕暮れのように柔らかい赤みを帯びている。

「キスがさ……」

その一言であかりと茜の顔に興味深そうな笑みが広がった。

「キスが何?大抵のことは驚かないから、遠慮しないで言ってみてよ」
あかりが茶化すように言うと、茜も腕を組みながらニヤリと笑った。

紬は恥ずかしさに顔を覆いながらも、意を決して続けた。
「私、キスが下手で……それで隼人くんに練習させられてるの」

「はあ……まじで?練習って……」
茜が唇を押し固めて目を細める。

「うん。隼人くんがお手本を見せてくれて、『こうやるんだよ』って言いながら、私にもやってみてって……」
紬の声はどこか恥ずかしげで、でも嬉しそうでもあった。

「それは……純粋無垢な紬にはなかなかハードル高いね」
茜が真顔で言い、あかりも頷いた。

「でもさ、それで一条先生、前よりずっと穏やかになったって職場で評判なんだよ?」
あかりが微笑みながら付け加える。

「紬のその愛のおかげで、事務所の空気も柔らかくなってるみたいだし、私たちもずいぶん仕事しやすくなったって話」

茜も同意するように言った。
「そうだよね。紬が一条先生を満足させられるかどうかで、うちの会社の安定感が決まってるって言っても過言じゃないから」

三人は笑い合い、空気は一気に和んだ。

「もう、紬は一条の愛にこれからも虐げられなさい!」
あかりが笑いをこらえながら強調した。

紬は顔を真っ赤にして小さく息をつきながら、二人の言葉を静かに噛みしめた。

外はすっかり夏の陽射しが強くなり、蝉の声が遠くから聞こえてくる。
でも、ここには彼女を温かく包み込む友情と、そして何よりも愛が確かに存在していた。
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