【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
「おはよう。今日もよろしく」

扉を開けて会議室に入ると、先に来ていた児玉亮太と、新人弁護士の山崎理央が顔を上げた。
机の上には、事件記録と証拠書類が整然と並べられている。

「おはよう。こっちはとっくに準備万端だよ」
児玉がニヤリと笑い、背もたれに寄りかかりながら手を振った。

「おはようございます、一条先生」
山崎は少し緊張した面持ちで、きちんと頭を下げた。

「山崎、昨日言ってた証拠開示資料、確認できたか?」

「はい、検察側から開示された映像資料も確認しました。万引きの瞬間が店内カメラにしっかりと映っていて……、依頼人が“盗っていない”と言っているのと明らかに食い違っています」

隼人は頷き、用意された椅子に腰を下ろす。

今回扱っているのは、窃盗の常習犯とされる60代男性の刑事事件だった。
都内のスーパーでの万引き——被害額は数千円程度。
しかし過去に同様の前科があり、今回も映像により現行犯逮捕されている。

「裁判員裁判じゃない分、スピード感は求められるけど、被告人の“認知機能の低下”が弁護の争点になるかもしれない」
隼人は資料の一部を手に取りながら言った。

「供述にも一貫性がないし、逮捕時にも自分の名前すら言えなかった。責任能力に関して、精神鑑定の必要性をこちらから主張する余地はあると思う」
児玉が真剣な顔で補足する。

「なるほど……責任能力の有無、という論点ですね」
山崎はノートに走り書きをしながら、何度も頷いた。

「ただし、“困っている高齢者を全員免責にはできない”っていう世論もある。そこをどう整理して、裁判官に納得させるかだな」
隼人は手元のメモを整理しながら、山崎に視線を向ける。

「山崎。主張を展開するとき、一番大切なのは“聞き手にどう伝わるか”だ。正論だけでは動かない」

「……はい、わかりました」

「じゃあ、今日は冒頭陳述の叩き台を一度読んでもらおうか」

山崎は少し緊張した面持ちで頷き、立ち上がって資料を手に取る。
その様子を見て、隼人はそっと口元を緩めた。

(最初は誰だって固い。だが、目の前の依頼人をどう守るかに集中すれば、自然と芯ができる)

隼人は静かに背もたれに身を預け、読み上げ始めた彼女の声に耳を傾けた。
この事件は重くも地味なものだ。
だが、こうした案件の積み重ねこそが、弁護士の真価を問われる場だと彼は知っている。

──3日後の初公判に向けて、確実に準備は整いつつあった。
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