【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
午後一番。
コーヒーの香りがほんのり残るオフィスで、紬はモニターに目を向けながら、午前中の続きの報告書に手をつけていた。
昼食後のほんのひとときの静けさが心地よい。
「成瀬さん」
声をかけてきたのは、課長の片山浩一だった。背筋が伸びていて、いつも物腰は柔らかいが、目は鋭い。
「高森さんの案件、進んでる?」
紬は少しだけ目を見開いたあと、手元の書類に目を落とす。
「はい。先週末に修理工場からの全損認定が正式に出まして、査定額も提示済みです。高森様には電話と書面でご案内済みですが……」
「けど?」
片山の視線が細くなる。
「……補償額が低すぎる、と不満を口にされていました。“こんな金額じゃ話にならない”と」
「やっぱりな。実は、俺のところにも今朝クレームめいた電話が一本入っててね。“訴えることも考えてる”っていう言葉も出てきた」
紬の手が、ほんの一瞬止まった。
(訴える……?)
「ご家族がかなり強く出てるみたいで。息子さんかな、電話口でかなり興奮してたようだ。保険対応の限界は説明してるけど、納得はされていない様子だな」
「……わかりました。改めて状況をまとめて、交渉経緯も記録しておきます」
「うん。成瀬さんの対応に落ち度があったとは思ってない。むしろ、丁寧にやってるのは分かってる。ただ……相手が“納得していない”という事実が残ると、話がこじれる」
「はい」
紬は背筋を正しながら頷いた。
デスクに戻って座ると、書類の一番上にある案件名が自然と目に入る。
──「高森正隆 様・車両全損対応」
(ここまで丁寧に対応しても、訴訟を口にされるのか……)
どこかで釈然としないものを感じながらも、彼女は再びキーボードに指を置いた。
目の前の案件に、ただ誠実に向き合うしかない。
そう、思考を切り替えながら──。
コーヒーの香りがほんのり残るオフィスで、紬はモニターに目を向けながら、午前中の続きの報告書に手をつけていた。
昼食後のほんのひとときの静けさが心地よい。
「成瀬さん」
声をかけてきたのは、課長の片山浩一だった。背筋が伸びていて、いつも物腰は柔らかいが、目は鋭い。
「高森さんの案件、進んでる?」
紬は少しだけ目を見開いたあと、手元の書類に目を落とす。
「はい。先週末に修理工場からの全損認定が正式に出まして、査定額も提示済みです。高森様には電話と書面でご案内済みですが……」
「けど?」
片山の視線が細くなる。
「……補償額が低すぎる、と不満を口にされていました。“こんな金額じゃ話にならない”と」
「やっぱりな。実は、俺のところにも今朝クレームめいた電話が一本入っててね。“訴えることも考えてる”っていう言葉も出てきた」
紬の手が、ほんの一瞬止まった。
(訴える……?)
「ご家族がかなり強く出てるみたいで。息子さんかな、電話口でかなり興奮してたようだ。保険対応の限界は説明してるけど、納得はされていない様子だな」
「……わかりました。改めて状況をまとめて、交渉経緯も記録しておきます」
「うん。成瀬さんの対応に落ち度があったとは思ってない。むしろ、丁寧にやってるのは分かってる。ただ……相手が“納得していない”という事実が残ると、話がこじれる」
「はい」
紬は背筋を正しながら頷いた。
デスクに戻って座ると、書類の一番上にある案件名が自然と目に入る。
──「高森正隆 様・車両全損対応」
(ここまで丁寧に対応しても、訴訟を口にされるのか……)
どこかで釈然としないものを感じながらも、彼女は再びキーボードに指を置いた。
目の前の案件に、ただ誠実に向き合うしかない。
そう、思考を切り替えながら──。