【番外編】孤高の弁護士と誓いの光 — 未来へ紡ぐ約束
新幹線の車窓をぼんやりと眺めながら、隼人は胸ポケットの内側に手をやる。

そこには、小さな黒いジュエリーボックスが収まったケース——数日前に受け取った、大切なものが入っていた。

──あの日のことは、はっきりと覚えている。

都内のジュエリーショップ。
店員が白い手袋で取り出したそのリングは、思っていた以上に繊細で美しく、彼の胸にずしりとした感慨をもたらした。

「こちら、オーダー通りに仕上がっております。一条様」

ケース越しに覗いた指輪は、光を反射して小さく瞬いていた。
紬の雰囲気に合わせて、シンプルながらも温かみのあるデザインに仕上げてある。
何度も店員と相談を重ねてようやく決めたものだ。

手に取った瞬間、その重みと輝きに、隼人は自然と口元が緩むのを抑えられなかった。

——これを、あの子の指に通す日が来る。
そう思っただけで、胸が高鳴った。

「…大丈夫。ちゃんと、喜んでくれるはずだ」

小さく呟きながら、その場でケースを丁寧にバッグの中へとしまった。
中身が少しでも揺れないように、仕切りのあるポケットに、そっと。

人前では冷静沈着な彼も、この瞬間ばかりは落ち着きなかった。
その夜は、眠りにつくまでずっと、指輪の存在が頭から離れなかったくらいだ。

──そして今。

その“あの子”は、自分の隣の席に座って、窓の外を見ている。

「新幹線って、旅してるって感じがするね」

無邪気なその声に、隼人は口元を緩める。

「ああ。今日からは、ちゃんとした“旅”だ」

肩の力が抜けて、紬が微笑む。
あの指輪を、どうやって渡すか。
タイミングも、言葉も、すでに何度も頭の中でシミュレーションしている。でも——。

(どうせ、想像した通りにはならないだろうな)

ふと、そんな予感もする。

彼女は、いつも自分の予想を裏切ってくれる。

思っていたよりずっと愛おしくて、優しくて、そして時に意外なほどに大胆で。

この旅が終わるころには、隣にいるこの手を、もう二度と離さない存在に変えよう。

その決意を胸の中で、そっと強く握りしめながら——隼人は、再び車窓に目を向けた。
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