幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
それは卑怯じゃ?
しっかり楽器持参だし。
逢生がどうして私がマンションを出る時にゴネなかったか、やっとわかったわよ!
伴奏をしていたお姉さんを横にやり、渋木さんがピアノの前に座る。
そのグランドピアノの横に陣川さんが立って、梶井さんが座っていた場所に逢生がチェロを手にして座る。

「なにを弾くのかしら」

「愛のワルツ?」

「グノーのアヴェマリア?」

三人の十八番であるアヴェマリアではなかった。
渋木さんの指が速いスピードでバラバラと鍵盤を叩く。
次に入るのは逢生のチェロ。
大きな羽音。
そして、その次は陣川さんのバイオリンが加わる。
小さな羽音。

「この曲は熊蜂の飛行ね」

さっきまで不満そうにしていた渋木さんのお姉さんがにっこりと微笑んでいた。
弦がまるで蜂の羽音みたいに空気を震わす。
蜂がどんどん増えていくみたい―――三人の音に乱れはない。
緑が多いカフェのせいか、蜂が本当に飛び回っているみたいだった。
殴りあいに来たのではなく、これはお遊びだというような顔で三人は梶井さんを見て笑っていた。
曲が終わると大きな拍手が起こった。

「生意気なガキだ」
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