幼馴染は私を囲いたい!【菱水シリーズ②】
地下駐車場の車までくると運転席に渡瀬がサッと乗る。

「監視されるのが嫌なら、女関係を清算してまともな方とお付き合いをお願いします」

「結心ちゃんみたいな?」

「お断りします」

即答かよ。
助手席に座り、気だるげにしている俺を横目で見てきた。
視線は腕のほうだ。
渡瀬が言うように関係はあくまで仕事のみ。
俺と割り切った関係でいられる渡瀬は鋼鉄の心臓でも持ち合わせているか、男に惑わされない結界でもはってるんじゃないだろうか。

「梶井さん。今回の仕事は自分で引き受けたんですよ。真剣にやらないと若い奏者に負けますよ。相手はクラシック界のプリンスで今一番勢いに乗っている三人です」

「そうだな」

知っているから引き受けた。
面白い話がきたと思った。
体がだるい。
昨日の晩、飲みすぎたせいだろう。
腕の痛みで眠ることすらできない。
赤い痕はまるで呪いのようだ。
これから練習があるってのに痛んだ腕ではうまく弾けるかどうか。

「怪我だけはやめてくださいね」

「でもまあ、少しは満足しただろう」

俺は誰のものにもならない。
誰のものになるつもりもない。
渡瀬が重い溜息をついた。
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