アルトの探しもの

8話

「すみません。ちょっと、忘れ物を探しに・・・・・・」

 我ながら苦しい言い訳だなと思いながら、私は手に持っていた地図をポケットの中にしまった。

「忘れ物? この部屋はしばらく使っていないはずだが――今、何を隠したんだ? 見せなさい」

 私は、どうしたらいいのか分からずに、その場に立ちつくしていた。

「えっと、これは――」

「すみません。私の部下が何かしましたか?」

 後ろを振り返ると、そこには北斗さんがいた。走ってきたのか、いつもより髪が乱れた北斗さんは、前髪をかき上げると言った。

「いえ、誰もいない部屋で何かをしていて、動きも怪しかったので、少し質問をさせていただいておりました」

「すみません。ここだけの話にしていただきたいのですが――私の研究室のデータが何処かへいってしまいましてね」

「何処かへ行った?」

「私は盗まれた可能性もあると思っているんですよ」

「大変じゃないですか。すぐに警察に被害届を――」

「ですが、盗んだのは他のチームの可能性がありましてね」

「え?」

「証拠はありませんが、個人的な推測では、私のチームを妬んだ他のチームの嫌がらせの可能性が高いと思っています。だから、私の部下と内密に調べていたんですよ。いくら他のチームとはいえ、逮捕者が出ては、研究所の評判に関わりますし──ここは一つ、内密にしていただけると助かるのですが・・・・・・」

 そう言った北斗さんは、今まで見たこともないような笑顔を、警備員へ振りまいていた。

(うっ、顔力はんぱない・・・・・・)

「そうでしたか。これは、余計なことを申しました。お仕事、頑張ってください。失礼します」

 警備員の男性は、顔を赤くするとその場を去って行った。私が呆気に取られていると、北斗さんはこちらを見て言った。

「なんですか、その目は?」

「いえ、すごいなと思いまして」

 私が言ったのは、普段は無愛想なのに、警備員に対しては、嘘をつきながら、とびきりの笑顔が出来るということだったが、北斗さんは何かを誤解したようだった。


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