君が最愛になるまで
洸の言っているのとは正しいと思う。
間違ってるのは間違いなく俺の方だし、俺の考えが真っ当だとは少しも思っていない。


この壊れてしまった感覚を洸と話すことで必死に取り戻そうとしている気がしてそれがひどく滑稽に思える。
そうでもしないと自分がもっと最低な人間になってしまいそうでそれが怖かった。


「それ言われてムカついた。感情のない行為に満足して特別だって勘違いして紬希を貶すなって」

「⋯⋯」

「だからその言葉で一気に冷めたというか」


俺の口から零れた言葉を聞いた洸は一瞬だけ目を見開いた。
だけどそれはすごく一瞬の出来事ですぐに普段のよく見る若干気の抜けたふわふわした表情に戻る。


「紬希ちゃん、覚えてる。千隼が教えてくれた幼なじみの名前だ」

「勝手に紬希のこと呼ぶな」

「別にいいじゃん減るもんでもないし。まぁ、俺としてはいい変化なんじゃないですか、と思ってますよ」


ビールに口をつけてごくごくと飲み干していく。
それに釣られるように俺もビールで喉を湿した。


喋っているせいか喉が乾き、ますますビールが美味しく感じる。
洸はビールを飲みきり、タブレットで新しいお酒を追加注文していた。


(こいつ⋯ほんと容赦ねーんだよな⋯⋯)


「あの日のこと、やっぱ許せないんだよな。千隼がそういう道選んだ理由も知ってるから俺は特に何も言わないけど、千隼にも幸せになって欲しいなって俺は思ってるよ」

「⋯⋯⋯」

「今の人生が幸せになれないとは言わないけど、千隼にも絶対信頼できて裏切らない人、きっと現れるから。そしたら今までの自分の行動が全部後悔に変わる時がきっと来るよ」

「──人は案外簡単に裏切るよ。信頼なんて一瞬でなくなるんだ」

「⋯⋯⋯そんなことないよ。千隼のことを裏切らずに寄り添ってくれる人、絶対いるから」


いつになく真剣な目で俺を見つめる洸。
いろんなことを全て知っている洸にはきっとたくさん思うこともあるだろう。


それでも最低なことをする俺を否定せずにいつでも寄り添ってくれるのは洸だけだ。
俺にもそんな人が現れたらきっと世界は変わるんだろうなと思う。


「けど、紬希に軽蔑の眼差し向けられた時、初めて自分がやってきたことの重大さに気づいた。どんだけ最低なことをしてきたか、突きつけられた気がしたんだ」

「今更だけどね俺にとっては。言っとくけど千隼は最低なクズだから。マジで俺が女の子なら絶対彼氏にしたくない」

「るせー。分かってる。だから紬希にそんな目で見られてそんな資格もないのに傷つく自分がいて、それにも引いた。自分のせいなのに」


誰にどう思われてもいいと思っていたのに、再会した幼なじみに向けられた軽蔑の視線にはちゃんと傷つけることを知った。
それと同時に紬希にこれ以上幻滅されたくないとも思ったんだ。


「もう既に紬希にクズって思われてるけど、これ以上そう思われたくないって思った。これ以上、紬希に幻滅されたくない」

「千隼⋯⋯」

「だからもう辞める。こんなバカげたこと」


今更もう遅いかもしれない。
たくさんの最低を積み重ねていた俺はもう紬希に幻滅以外の感情は向けてもらえないかもしれない。


それでももう1度、紬希の幼なじみとして胸を張って隣を歩きたい。
時間をかけてもゆっくりでも、恥ずかしくない自分になれるように。


「今度さ千隼をそんなふうに変えたその幼なじみの紬希ちゃんに会わせてよ」

「は?なんでだよ」

「可愛いんでしょ〜?紹介してよ俺に〜」

「ぜってーやだ。会わせるもんか」

「ケチ!俺と千隼の仲なのに!」


いつの間にか心が軽くなっていた。
洸が自然と俺の心を軽くしてくれているようだ。


いつか俺にも洸が言ったように信頼できて寄り添ってくれる人が現れるのだろうか。
そんな人が現れて欲しいと思うと同時に、心に残るその傷が膿んで痛む気持ちにゆっくり蓋をした。
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