君が最愛になるまで
心の距離
9月中旬の金曜日。
千隼くんが私との関係を公にしてから会社での生活が少しだけ変わった。
やけに女性社員が私に話しかけてくる。
その理由は明白だった。
みんな千隼くんと近づきたいんだろう。
私に近づけば千隼くんとの距離も詰められるとでも思っているのだろうか。
「ねえねえ桜庭さん。早乙女さんって昔はどんな人だったの?」
「昔からあんなにイケメンだったの?」
「あーえと⋯⋯」
(この人たちの作業はもう済んでるんだろうか⋯⋯)
デスクで作業をしていると私を囲むように女性社員が次々とやって来る。
みんな大して話したことのない人たちばかりなのに私が幼なじみだと分かったらこうだ。
似たような質問を何度もされるし何度も答えているためいよいよ疲れてきた。
千隼くんはと言うとそんな姿を見ても助けてくれることはない。
「桜庭ちゃんもそういう関係なの?早乙女さんと」
「幼なじみとそういう関係ってやばいね」
(あ、なるほど⋯そう思われるわけね)
悪いけどあなたたちと一緒にしないでほしい、なんて言葉はゴクッと唾と共に飲み込んだ。
ただの幼なじみなだけなのにそう思われるなんて心外だ。
誰とでも寝るような人たちと私は違う。
だけどそんな言葉を直接言う勇気は私にはなかった。
「あれれ〜私作業したいのになんか人だかりがあって邪魔だな〜」
「え、ちょ、何よ!」
「すみません。仕事したいんでどいてもらっていいですか?邪魔です」
普段の柔らかくのほほんとした雰囲気を一切感じさせない冷たく鋭い言葉を発するのは真夏ちゃんだった。
私の隣に立つ真夏ちゃんは囲んでいた女性社員たちに一切怯むことなく言い切った姿はすごくかっこいい。
女性社員たちは真夏ちゃんの威圧感に圧倒されたのか私の席から離れていった。
私の隣の席にふんっと言いながらドスッと座った真夏ちゃんにお礼を言おうと顔を向けると心底ほっとしたように顔を綻ばせる。
「あーよかった。なんか一言くらい言われるかと思ったけどなんも言われなくて」
「真夏ちゃんかっこよかったんだけど。痺れました惚れそうでした」
「内心ビビってた!ビクビクしてたよ〜」
さっきまであんなにかっこよかった真夏ちゃんの姿は今はなく、穏やかでのほほんとした雰囲気に戻った。
やっぱりこっちの真夏ちゃんの方が彼女っぽいな、なんて思う。
「真夏ちゃん。ありがとう」
「お礼なんて言わなくていいよつむつむ」
「うん⋯でも言わせて欲しい」
「心無い言葉って時には凶器のように鋭く人の心をえぐるのに、言った側は大して気にしてないんだよね」
それはきっとさっきの人たちの言葉のことを言っているんだろう。
職場に私の気持ちをちゃんと分かってくれる人がいて本当に良かった。
「あのさつむつむ。私もごめんね。まさかつむつむが早乙女さんの幼なじみなんて知らず、噂の話たくさんしちゃって⋯私の言葉でつむつむを傷つけたと思う」
「ううん、そんなことないよ。いずれ知ることになっただろうし、真夏ちゃんの口から聞けて逆に良かったと思ってる」
「つむつむ⋯⋯好き」
「わ、どうしたの急に」
真夏ちゃんはそう言って突然私を抱きしめてきた。
服から香る真夏ちゃんの柔軟剤の香りが心を穏やかにさせてくれる。
抱き締められた腕から伝わってくる真夏ちゃんの温かさは彼女の優しさを表しているようだった。
そんな真夏ちゃんの腕を優しくポンポンっと撫でる。
「なんか朝からほんわかしてるね」
「おはよう。要くん」
「かなめん邪魔しないでね、今私はつむつむとラブラブタイムだから」
私をぎゅうぎゃう抱きしめたまま呟く真夏ちゃんにはいはい、と呆れたように自分の席に座る要くん。
私から離れた真夏ちゃんはもう1度ごめんね、と言ってくれた。
「それにしても紬希ちゃん。朝から人気だね」
「こんな人気必要ないよ。大して仲良いわけじゃない人たちにあんなに囲まれて疲れる」
「つむつむが早乙女さんの幼なじみだって分かったらこうだもんね。ほんと人間の嫌なとこ見える〜」
「紬希ちゃん。何かあったら俺たちになんでも言ってね」
そう言って要くんは私の頭をポンっと触れた。
最近、要くんが私の頭に触れることが増えた気がする。
あくまで同期としての感情表現なのかと思っているが、要くんが私を見つめる瞳がなんだか甘い気がした。
気のせいかとも思ったが、最近そう感じることが増えているため気のせいじゃない気がする。
「なんか最近かなめんがつむつむにちょっかいかけることが増えてる気がする〜」
「まぁ間違いではないね」
「え!なに!やだ、かなめんそういうこと?」
「はい、真夏ちゃん静かにしてくださーい」
要くんによって真夏ちゃんは椅子ごと自分のデスクに戻される。
私たちはそれを最後にそれぞれの仕事に戻った。
お昼休憩までみっちりと作業をこなし椅子の上でぐーっと伸びをした。
そのまま目頭を抑えて軽くマッサージをする。
千隼くんが私との関係を公にしてから会社での生活が少しだけ変わった。
やけに女性社員が私に話しかけてくる。
その理由は明白だった。
みんな千隼くんと近づきたいんだろう。
私に近づけば千隼くんとの距離も詰められるとでも思っているのだろうか。
「ねえねえ桜庭さん。早乙女さんって昔はどんな人だったの?」
「昔からあんなにイケメンだったの?」
「あーえと⋯⋯」
(この人たちの作業はもう済んでるんだろうか⋯⋯)
デスクで作業をしていると私を囲むように女性社員が次々とやって来る。
みんな大して話したことのない人たちばかりなのに私が幼なじみだと分かったらこうだ。
似たような質問を何度もされるし何度も答えているためいよいよ疲れてきた。
千隼くんはと言うとそんな姿を見ても助けてくれることはない。
「桜庭ちゃんもそういう関係なの?早乙女さんと」
「幼なじみとそういう関係ってやばいね」
(あ、なるほど⋯そう思われるわけね)
悪いけどあなたたちと一緒にしないでほしい、なんて言葉はゴクッと唾と共に飲み込んだ。
ただの幼なじみなだけなのにそう思われるなんて心外だ。
誰とでも寝るような人たちと私は違う。
だけどそんな言葉を直接言う勇気は私にはなかった。
「あれれ〜私作業したいのになんか人だかりがあって邪魔だな〜」
「え、ちょ、何よ!」
「すみません。仕事したいんでどいてもらっていいですか?邪魔です」
普段の柔らかくのほほんとした雰囲気を一切感じさせない冷たく鋭い言葉を発するのは真夏ちゃんだった。
私の隣に立つ真夏ちゃんは囲んでいた女性社員たちに一切怯むことなく言い切った姿はすごくかっこいい。
女性社員たちは真夏ちゃんの威圧感に圧倒されたのか私の席から離れていった。
私の隣の席にふんっと言いながらドスッと座った真夏ちゃんにお礼を言おうと顔を向けると心底ほっとしたように顔を綻ばせる。
「あーよかった。なんか一言くらい言われるかと思ったけどなんも言われなくて」
「真夏ちゃんかっこよかったんだけど。痺れました惚れそうでした」
「内心ビビってた!ビクビクしてたよ〜」
さっきまであんなにかっこよかった真夏ちゃんの姿は今はなく、穏やかでのほほんとした雰囲気に戻った。
やっぱりこっちの真夏ちゃんの方が彼女っぽいな、なんて思う。
「真夏ちゃん。ありがとう」
「お礼なんて言わなくていいよつむつむ」
「うん⋯でも言わせて欲しい」
「心無い言葉って時には凶器のように鋭く人の心をえぐるのに、言った側は大して気にしてないんだよね」
それはきっとさっきの人たちの言葉のことを言っているんだろう。
職場に私の気持ちをちゃんと分かってくれる人がいて本当に良かった。
「あのさつむつむ。私もごめんね。まさかつむつむが早乙女さんの幼なじみなんて知らず、噂の話たくさんしちゃって⋯私の言葉でつむつむを傷つけたと思う」
「ううん、そんなことないよ。いずれ知ることになっただろうし、真夏ちゃんの口から聞けて逆に良かったと思ってる」
「つむつむ⋯⋯好き」
「わ、どうしたの急に」
真夏ちゃんはそう言って突然私を抱きしめてきた。
服から香る真夏ちゃんの柔軟剤の香りが心を穏やかにさせてくれる。
抱き締められた腕から伝わってくる真夏ちゃんの温かさは彼女の優しさを表しているようだった。
そんな真夏ちゃんの腕を優しくポンポンっと撫でる。
「なんか朝からほんわかしてるね」
「おはよう。要くん」
「かなめん邪魔しないでね、今私はつむつむとラブラブタイムだから」
私をぎゅうぎゃう抱きしめたまま呟く真夏ちゃんにはいはい、と呆れたように自分の席に座る要くん。
私から離れた真夏ちゃんはもう1度ごめんね、と言ってくれた。
「それにしても紬希ちゃん。朝から人気だね」
「こんな人気必要ないよ。大して仲良いわけじゃない人たちにあんなに囲まれて疲れる」
「つむつむが早乙女さんの幼なじみだって分かったらこうだもんね。ほんと人間の嫌なとこ見える〜」
「紬希ちゃん。何かあったら俺たちになんでも言ってね」
そう言って要くんは私の頭をポンっと触れた。
最近、要くんが私の頭に触れることが増えた気がする。
あくまで同期としての感情表現なのかと思っているが、要くんが私を見つめる瞳がなんだか甘い気がした。
気のせいかとも思ったが、最近そう感じることが増えているため気のせいじゃない気がする。
「なんか最近かなめんがつむつむにちょっかいかけることが増えてる気がする〜」
「まぁ間違いではないね」
「え!なに!やだ、かなめんそういうこと?」
「はい、真夏ちゃん静かにしてくださーい」
要くんによって真夏ちゃんは椅子ごと自分のデスクに戻される。
私たちはそれを最後にそれぞれの仕事に戻った。
お昼休憩までみっちりと作業をこなし椅子の上でぐーっと伸びをした。
そのまま目頭を抑えて軽くマッサージをする。