君が最愛になるまで
「さて、お昼食べよ〜。何食べる?」

「俺さ、近くにあるキッチンカーのローストビーフ丼が食べたいんだけど」

「それ知ってる。美味しいって他の人も言ってたやつだよね」

「あと!シュークリームもそのキッチンカーゾーンに売ってたよね?私それも食べたい。つむつむたちも食べる?」

「いいね、おやつまで食べちゃお」

「俺も食べたい」


会社の近くの広場にはキッチンカーがたくさん並んでいる。
よく私たちはそこでお昼を買って会社で食べていた。


要くんがローストビーフ丼を買い、真夏ちゃんがシュークリーム、そして私が飲み物を買いに行くことになった。
またあとで、と私たち3人は別れる。


「紬希」


私もまた飲み物を買うために立ち上がると名前を呼ばれ呼び止められる。
振り向くとそこにいたのは千隼くんで私を真っ直ぐ見つめて小さく微笑んでいた。


「お疲れ様」

「お疲れ。今からお昼か?」

「うん。そうだよ」

「何食べるんだ?」

「キッチンカーのローストビーフ丼。要くんたちが買ってきてくれてる」


そう言った直後、千隼くんの表情が一瞬歪んだ気がした。
だけどそれは一瞬ですぐにいつものみんなに見せる穏やかな表情に戻る。


「前田とは仲良いのか?」

「仲良いっていうか、同期だから。真夏ちゃんと3人でよく話すよ」

「あの男は、ただの同期とは思ってなさそうだけどな」

「⋯何が言いたいの?」

「なんでもない。今日の夜、一緒にご飯食べないか?」


それは思いもよらない誘いだった。
なぜなら今日は金曜日。


本来なら千隼くんは会社の女性社員と夜を過ごすはずだ。
それなのに私を誘う理由が分からない。


「⋯⋯えと、私?」

「なんだよその目」

「いや⋯別に」

「俺の事、なんだと思ってるわけ?」

「え、誰とでも寝るクズ男だけど」

「おい、はっきり言うなよ」

「ほんとのことじゃん」


そう言ってお互いどちらからともなく笑い合う。
再会してこんな風に何も考えずに笑えたのはもしかしたら初めてかもしれない。


まだ私たちはこんなふうに笑い合えるんだと知れたことは私の中で大きかった。
少しだけギクシャクしていた関係がやっと昔のように幼なじみとして前に進めた気がする。


「今日金曜日じゃん」

「今までも毎週紬希が想像するようなことしてたわけじゃない。それにもう辞めたんだよ、そんなアホなこと」

「えっ?!アホなことだとは認識してたんだ」

「⋯⋯ほんと容赦ねー言葉投げかけてくるよな紬希って。で、どうなの?行くか?」

「予定ないから行ってもいいよ。今日は千隼くんの奢りね」

「図々しい幼なじみだな。分かったよ。終わったら下で待ち合わせな」


そう言って千隼くんは私の頭をまたポンっと撫でた。
最近よく頭を撫でられるな、なんて悠長に考えながら時計を見ると2人がご飯を買いに行ってからだいぶ経ってしまっている。


(やば、急がないと)


2人が戻る前に飲み物を買うため私は足早にその場を離れた。
急いで飲み物を買ってデスクに戻ると既に2人は戻ってきており笑顔で迎えてくれる。


「遅かったねつむつむ。混んでた〜?」

「うん、ちょっとね。遅くなってごめん」

「ゆっくりでいいよ。ローストビーフ丼もちゃんとゲットしてきたし」


穏やかなお昼時間を過ごす。
2人と他愛もない話をしながら午後からも頑張ろうなんて言い合って私たちは豪華な昼食を平らげた。
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