君が最愛になるまで

自覚

10月頭に入ったある日の平日。
今日は沙羅ちゃんと昼飲みしようと私の家で集まる予定だ。


お酒を買ってきてくれる沙羅ちゃんを待ちながら私は簡単なおつまみを何種類か準備する。
和洋関係なく準備したため、色んな種類がテーブルに並んだ。


サーモンのカルパッチョにきゅうりの塩昆布和え、チャンジャやブルスケッタを準備した。
あとは沙羅ちゃんが来るのを待つだけだ。


テーブルの上にお皿などを準備しているとインターホンが鳴る。
モニターを確認するとそこには沙羅ちゃんが立っていた。


急いで玄関を開けるとニカッと笑った笑顔が私の目に飛び込んでくる。
笑顔で手にぶら下げた袋を見せてくれた。


「いっぱい買ってきてくれたんだね」

「そりゃ昼飲みだもん。夜までいていいんだよね?」

「うん。大丈夫だよ」

「楽しみ。そしていい匂いする。おつまみ作ってくれたんだね、ありがとう」

「沙羅ちゃんもお酒ありがとう。早速始めちゃお」


部屋に上がった沙羅ちゃんは何本かのお酒をテーブルに置いて、残りを冷蔵庫に全部片付けてくれる。
長袖の黒いニットにネックレスを付け、スキニーパンツを履く沙羅ちゃんはかっこいい。


シャンパンを買ってきてくれたようで、家にあったグラスを出してゆっくりと注いでいく。
シュワシュワと綺麗な泡がグラスの中で揺らめき、一気に空間がオシャレに変わる。


「さ、紬希。今日はとことん飲みましょ」

「はーい。かんぱーい!」

「かんぱい!」


グラスを傾けて軽く合わせて私たちはゆっくりとお酒を口に運んだ。
ほんのり甘さのあるシャンパンはとても飲みやすく、簡単に1本空けてしまいそうになる。


私が作ったおつまみを取り皿に分けて口に運んだ沙羅ちゃんは美味しい〜と言いながら嬉しそうに微笑んだ。
こうして美味しいと言われると簡単なものとはいえ、作ってよかったと思えた。


「で、どう?早乙女さんとの仕事は」

「ん〜なんとも言えなくて、話したいことがありすぎるの」

「なになに。なんでも聞くよ」

「なんか雰囲気が変わっててさ、昔はすごく優しくて素敵な人だったのに今はクズになってた」

「え、クズ?」

「うん。誰でも抱くんだって。毎週金曜日に女の人と過ごしてたらしい。前の会社でもそうだったって噂なの。実際私も女の人と待ち合わせして夜の街に消えてくの見たし」

「あちゃ〜それはクズだね」


眉をひそめながらそう呟く沙羅ちゃんのグラスがあっという間に空になったため、シャンパンをすぐに注ぐ。


「でもやけにちょっかいかけてくるというか、ご飯には誘われるんだよね」

「それって金曜日?」

「バラバラ。金曜日もあったけど何もなかったし。私はそういう領域にいないって言われて、眼中にないって遠回しに言われてる気がしてちょっと傷つくというか⋯⋯」


私のその言葉で沙羅ちゃんはきっと私の気持ちに気づいただろう。
だけど沙羅ちゃんは特に何も言ってくることなく、私の話を聞いてくれた。


おそらく私がちゃんと言葉にするまで待ってくれているんだろう。
沙羅ちゃんはハッキリ物言うがそういう所は距離感を考えてくれる人だ。


「和樹に振られた後、沙羅ちゃんに言われたでしょ?だから私前を向こうと思ってたんだよね。だけどその直後に再会して、やっぱり消しきれなかったみたい」

「まぁ紬希は中学の頃から本当に早乙女さんのこと好きだったもんね。私もその時からその気持ちは知ってるから、紬希の気持ちも分かるよ」

「やってることはクズで最低なのに嫌いになれないの。私は眼中にないって分かってるのに、それでも気持ちを消しきれない」

「うん。初恋って特別だもんね」

「やっぱり私、好きみたい。千隼くんのこと」

「いいんじゃない?今度は引かずに追いかけてみても」


幼い頃の私は特別な幼なじみという関係を壊したくなくて告白することから逃げていた。
告白してこの関係が壊れるくらいなら幼なじみとして近くにいられればそれでいいと思っていた。


だけどそんなことをしているうちに千隼くんは別の人に心を奪われ、隣を歩いていたのは別の女の子だった。
呆気なく気持ちを伝えることもなく終わったと思っていた初恋だったがこんな形で再び始まるなんて。


好きな気持ちは簡単に消すことが出来ず、大人になった今でも引きずっている。
千隼くんにとってはただの幼なじみでしかないが、私にとっては特別な初恋だ。
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