君が最愛になるまで
「紬希は嘘つけないよな」

「えっ?」


そうポツリと呟いた千隼くんの表情はどこか寂しそうでそれでいて悲しそうだった。
だけどまたこれ以上踏み込んでくるなという無言の空気を感じ何も聞くことができない。


言葉や空気の節々で感じる私と千隼くんとの心の距離。
こんなに近くにいるのに、その距離はすごく遠く感じた。


そんなことを考えながら歩いていると目的地のイタリアンに着いたようで、千隼くんは慣れた動きでお店に入っていく。
その後を追いかけるように私も足を踏み入れると、おしゃれで落ち着きのある空間が広がった。


食事に来ているお客さんたちもカップルが多いのか仲睦まじく食事を楽しんでいるようだ。
席に案内され私たちは向かい合うように席に着く。


「何食べたい?」

「好きなの頼んでいいよ」


(やば…ちょっと言い方きつかったかも)


そう思ったときには既に遅く、千隼くんは少しだけ困ったように笑っていた。
どうせ私以外の人ともここに来たんだろうという思いが言葉に滲んでしまったようで、無意識のうちに冷たくなってしまったようだ。


特定の姿が見えない女性たちにひどく嫉妬している自分がいる。
それは幼馴染としての嫉妬の感情じゃないことくらい、既に自分の中では分かっていた。


(私、やっぱり千隼くんのことが好きなんだ……)


そう気づいたとしても千隼くんにとっては私はただの幼なじみでしかない。
特別な関係になることなんてきっとできやしないだろう。


この気持ちはずっと心の奥底にしまっておくべきなんだと自分に言い聞かせた。
じゃないときっと自分が傷つくだけだ。


「紬希、怒ってるのか?」

「怒ってるわけじゃないよ。そんな関係じゃないじゃん私たち」

「⋯⋯⋯幼なじみとしてそんなバカげたこと辞めなよって止めなかったな」


千隼くんが何をしているのか私だって知らないわけじゃない。
だけどそれを止める権利が私にはあるだろうか。


彼女でもない私にそんな権利はない。
ただの幼なじみに千隼くんを止められるほどの影響力なんてない。


「止める義理なんてない」

「⋯⋯⋯」

「好きなように生きればいいと思うよ」


嘘だ、本当はそんなこと思ってなんかない。
どうしてそんなことをしているのか、どうしてそんな噂が出回るようになったのか、聞きたいことはたくさんある。


だけどそれを踏み込ませないように牽制しているのは千隼くんの方だ。
時折見せる悲しそうな顔や一瞬だけ瞳に宿る冷たさのある感情とか、全部気になっている。


「なんかいろいろ慣れてたから、随分色んな意味で大人になっちゃったんだなってちょっと寂しかっただけ。だからごめん、言い方強かったかも」

「いや、俺も変なこと聞いた。悪い」


その後は何事も無かったかのように2人で他愛もない話をした。
お互い深入りしすぎないように真相に近づきすぎないような上辺だけの会話を繰り返す。


今日は金曜日。
今までだったらこの後千隼くんは女性とホテルにでも行っていたんだろうか。


辞めたと言っていたため、もちろん私が誘われることはなかった。
遅くなったから送ると言われたが、余計に自分が惨めになる気がして丁寧に断る。


私が断った時の千隼くんの表情が忘れられない。
驚きと一瞬の寂しさを滲ませたような瞳が私を捉えていた。


距離が縮まったなんて気のせいで、私たちの心の距離は少しも縮まらない。
近いようで遠い、これが今の私たちの関係だ。
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