君が最愛になるまで
「紬希は早乙女さんがなんで誰でも抱くようになったか知ってるの?」

「ううん、聞いてないよ」

「なんか理由があるんじゃない?私も早乙女さんにたくさん会ったわけじゃないけど、紬希と遊んでる時何度か会ったことあるでしょ?そん時の印象もすごく良かったし、そんな彼が理由もなくそうなるとは思えないというか⋯。直接噂のこととか早乙女さんから聞いたことあるの?」

「理由を聞きたいけど、踏み込んでくるな感がすごいんだよね。千隼くんに確かに直接聞いたことないかも」

「なんかますます怪しいね。言いたくない何か理由があるのは間違いなさそう。それにあくまで噂だから真実かどうかは定かではないよね」


それは私もずっと気になっていた。
千隼くんがそうなったのには何が理由があるのではないかと。


あれだけラブラブだった高校でできた彼女と別れて今のような生活になった理由がきっとあるはずだ。
それを知らない限り、私は千隼くんと心の距離を詰めることはできないだろう。


「たまに、冷たい顔をする時があるの。だけどそれは寂しそうにも見えて⋯⋯」

「まぁなんでもかんでも踏み込めばいいってわけじゃないからなんとも言えないけど、何も言わずにただそばにいてくれるだけでも嬉しい時ってあるよね」

「うん。確かにそうだね」

「紬希が偽らずに真っ直ぐな気持ちで隣にいればいつかは伝わるかもしれない。簡単な道のりじゃないだろうけど」

「分かってる。この恋が簡単じゃないってことくらい」


シュワシュワと消えていく泡をじーっと見つめる。
今の私の立ち位置からこの恋を進めていくにはきっと長い道のりになるはずだ。


それでも私にとってそんなのは少しも苦じゃない。
今までも長い間この初恋を引きずってきたんだ。


ゆっくり少しずつ千隼くんとの距離を詰めていければいいと思う。
会えていなかった10年間を、少しずつ知っていきたい。


「ま、私は紬希の味方だから。何があっても私だけは味方でいるから安心しな」

「沙羅ちゃんがいることが本当に心強いよ。昔からそばにいてくれて、本当に助かってる」

「紬希の拗らせ引きずり初恋をこんな大きな心で見守れる友達なんて私しかいないでしょ」

「ふふふっ確かに。その通りだね」

「もう1回乾杯しよっか」

「するー!」


お酒もほんのり回ってきた私たちはもう1度グラスを合わせて乾杯をした。
沙羅ちゃんに話したことで気持ちが楽になったし、宣言したことで改めて自分の気持ちを自覚することが出来た。


私は千隼くんが好きだ。
今度こそ、逃げずに私の気持ちを伝えたい。


「さ、今日は飲みましょ紬希。お酒はまだたくさんあるんだから」

「そうだね。おつまみもまだたくさんあるよ!」


私たちは日が落ちるまでいろんな話をしながらお酒を飲んだ。
時には声を上げて笑ったり、時には落ち込んだり怒ったり、いろんな話をした。


お酒のペースは早まっていき、あっという間にシャンパンが入っていたボトルは空になる。
そしてすぐに新しいボトルも空けて私たちは楽しい時間を過ごした。


***


「うわ、酒くさ⋯⋯」


どこからか不機嫌そうな小さな声が聞こえてきた。
ふわふわと思考がまとまらない頭で必死に状況を理解しようとする。


「ったく、ひどい状態」


キッチンに広がった空いたボトルをゴミ袋に入れて纏めてくれる姿がぼんやりとした視界の中に入ってきた。
どうやら私たちは寝てしまっていたようで机の上には少しだけおつまみたちが残っている。


小さなため息やちょっとした暴言が聞こえながらも片付けをしてくれているようだ。
眠たい目を擦りながら横を見ると机に突っ伏したままの沙羅ちゃんがいた。


どうやら沙羅ちゃんも私と同じように眠ってしまっているようだ。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。


「なに、目覚めた?」

「んぅ⋯」

「ほら、水。これ飲んでちゃんとして」

「ありが、と⋯」


ぼんやりとした視界には唇を尖らせながらコップに入った水を渡してくれた男の子の姿が目に入る。
軽くパーマがかかった黒髪に耳元にはフープピアスがついていた。


「あれ、(そう)⋯?」

「もう20時だよ。いいの?沙羅さん帰さなくて」
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