最後に名前を呼べたなら ―君の記憶と、永遠に―


 

静かな昼休みの廊下
ふたりしかいないと思ってた、その空間で

菜亜が
悠の袖をそっと掴んだまま、目を逸らしながら言った

 

「……うん」

 

その声があまりに真っ直ぐで
悠の胸の奥がずっと、騒がしかった

返す言葉を探してたときだった

 

「……なぁ、今のってさ」

 

――ヒール音
――ふたり分の足音

 

「え、え?え??ちょっと待って何あれ」

 

声の主は希衣と莉愛

階段をのぼってきたその瞬間
ふたりの距離が想像以上に近かったのを見られてしまった

 

 

「やば、やば、近っっ」
「え、え?付き合ってんの?え、まってそれ私たち聞いてない」
「てかちょっと悠くん!!!」

 

菜亜の顔が一瞬で真っ赤になって
慌てて袖から手を放した

 

「ち、ちが……っ、違う、ただ話してただけで……!」

 

悠はと言えば
肩をすくめて、めんどくさそうな顔してる

けど
目は笑ってた

 

「……見られたもんは仕方ねーだろ」

 

「そ、それにしても……なんか…なんか…!」

 

「“なんか”ってなんだよ」
悠はぼそっと笑ってから

菜亜の方に目をやって、小さく呟いた

 

「……別に、見せてやってもいいけどな」

 

 

菜亜、固まる

莉愛と希衣:「うわああああああああああああ」

 

騒がしすぎる空気の中で
菜亜はただひとつ確信した

――今のこの感情は、もう“隠せない”

 

 

傘の中で揺れた想い
図書室で触れた指先
あの目、あの声、あの温度

 

全部が
“好き”に向かって、ちゃんと動いてる
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