私のお世話がかり
 ◯居酒屋
 縮こまる双葉
 最上「無理やりは良くないよ」
 最上は双葉を押しのけてその場に立ち上がり、双葉は少しホッとした顔で見上げる。
 最上「俺がやります」
 双葉は目を見開く。
 最上「ゆっち、ネクタイ貸して」
 ゆっち「はー、汚さないでよね」
 湯本はフリルとリボンのついたブラウスの、黒とピンクのドット柄のネクタイを外した。
 最上はジャケットのボタンを外して脱ぎ白いシャツ一枚になると、前髪で片目を隠し、メカクレ風にセットする。
 最上「“すべての悪を受け止める。ガチブラック”」
 右手で前髪をかきあげ、左手を前に突き出した。彼の周りに薔薇が咲いているみたい。

 一同はシーンとし、わずかな間があって爆笑が起こった。
 部長「もう、最上くんは! ウケるんだけど!」
 部長はお腹を抱えて笑っている。
 宮内「変なところで完コピすんなっ」
 湯本はというと、髪をいじって聞いていない。

 双葉は突然の出来事にポカンと呆気に取られてしまった。
 今までずっと真面目な雰囲気だった最上が、別人のように濃いオタク化したから。そして、彼のポーズとセリフに見覚えがあったから。
 最上は腰を下ろした。
 双葉(私、これ見たことある)
 双葉「ガチブラック、知ってます」
 最上「そうなの!?」
 最上は目を丸くして双葉を振り返った。
 双葉「弟がまだ小さいので……日曜日毎朝一緒に見てて…子供向けのヒーローアニメですよね」

 双葉が呟くと、最上はイキイキとした表情を浮かべ、双葉の両手をがっちり握った。
 最上「最高だよな!」
 双葉「!」
 男の人に手を握られ、双葉は顔が真っ赤になった。
 双葉・最上「……」
 そのことに気づいた最上は、慌てて手を離した。
 最上「わ、悪い」
 双葉「あ……あははは」
 双葉は作り笑顔をした。
 双葉 (びっくりした……あんなふうに、男の人に手を握られたの初めて)
 ドキドキと心臓が落ち着かない。
 双葉 (この人も慣れてるのかも。他の先輩方みたいに経験豊富なのかも……。)
 なぜか、ズキンと心が痛んだ。
 双葉 (みんな早いなぁ。私だけ、取り残されちゃったらやだなぁ……)

 ふと、遠くでニヤニヤしている部長の視線に気づいて、双葉は頭を横に振った。
 双葉(笑わないでください!)
 双葉 (経験があるとか無いとか関係無い。みんなと仲良くなるんだもん! )

 湯本「それでー、ご趣味は? 何派? 漫画とかアニメとか、声優とかで言ったらー」
 湯本が向かいの席から双葉に話かけた。
 気まずかった双葉は、話題が変わったことに安心して素直に答える。
 双葉「バレエ鑑賞です」
 一同「……バレエ?」
 みんなきょとんとした顔をした。
 最上「えーっと……漫研で、バレエ??」
 双葉はキラキラした瞳でうなづくと、一同はまた一気にざわついてしまった。
 双葉 (な、なんか変なこと言った……!? )  双葉は涙目で震える。
 (バレエ見るよね? ダンスも曲も美しいよね! 
? )

 ーー若松双葉。18歳。待ちに待った大学生活の幕開けです!
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